どうしても「ランチ」が読みたくて下巻から。
モームは随分長生きで、1874年から1965年まで生きたということにまず驚く。第一次世界大戦が終わった時には既に45歳、その後第二次世界大戦もあり、さらに20年も生きたんだから。その間の価値観や社会の変化というのは凄まじいものがある。両親の早世、吃音、結核、療養生活、諜報活動、世界を股にかけた旅、さらに生きている間は公に出来なかった同性愛者であるということが、社会と人の心の変化をつぶさに見てきたことと一緒になって、素晴らしい作品を生み出したのである。ニヒリズムの中にも、精一杯真摯に生きる人に対する優しさがあり、ユーモア精神もある。こういう本をたびたび読み返すことは人生の幸せである。
「物知り博士」自体良かったが、巻末の訳者の解説で、さらに納得。「人間の意思は障害に立ち向かうことで強まる。意思が阻害されなければ、目標を達成するために努力を要しなければ、自分の手の届く範囲にあるものだけで欲望が満たされるのならば、意思は無能になる」(P162)意思が無能になった人物の晩年を描いた「ロータス・イーター」、憎しみが人を生かす。愛もまた。そんなことを考えさせる「サナトリウム」、最後まで妻の心も能力も魅力も理解できない夫を描く「大佐の奥方」、「五十女」「冬の船旅」も良かった。
巻末の編訳者の解説がとても詳細で親切。行方さんという優れた研究者・訳者だからこそできる解説である。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
未設定
- 感想投稿日 : 2020年7月19日
- 読了日 : 2020年7月19日
- 本棚登録日 : 2020年7月19日
みんなの感想をみる