i(アイ)

著者 :
  • ポプラ社 (2016年11月30日発売)
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西加奈子は極めてまっとうなことを書く。愛、友情の素晴らしさ。そんなのイマドキ、児童書だってストレートに書かないのに。
しかし、この小説を読んで感動するのは、二人の友情の後ろに、世界中で命を奪われたり、家族をなくしたりした人たちの姿がちゃんと見えるからだと思う。どんな美しい愛情や友情を描いても、この世にはなんの落ち度もないのに命を奪われる人がいて、その人たちの苦しみを考えたら、何が愛情だ、友情だ、恵まれた社会に生きてる人は呑気でいいね、と思ってしまう。あるいは、後ろめたさを感じてしまう。そこを、きちんと書いて、なおかつそれでも愛は大事だと言える。それは厭世的であったり冷笑的であったりするより、ずっと勇気がいることだし、様々な背景を持ち、考えも違う読者に納得させるのは、とても難しいことだけれども、西加奈子にはそういう才能がある。それは本当に稀有な才能なのだ。
何よりいいのは、西加奈子の本が売れてること。読みやすくて、わかりやすい。それでいて世界の抱える問題にちゃんと向き合っている。この本でアイが記したたくさんの死者たち。そんなの関係ないし興味ない、って層の人にも読んでもらえそうなところがいい。読んでほしい。

「誰かのことを思って苦しいのなら、どれだけ自分が非力でも苦しむべきだと、私は思う。その苦しみを大切にすべきだって」(p157,270)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2020年1月3日
読了日 : 2020年1月3日
本棚登録日 : 2020年1月3日

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