深い河 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (1996年6月13日発売)
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本棚登録 : 5809
感想 : 693
5

『沈黙』よりも読みやすく考えさせられる小説だった。

「必ず…生まれかわるから、この世界の何処かに。探して…わたしを見つけて…約束よ、約束よ!」
亡くなった妻を求めインドへやって来た磯辺。
彼と同じツアーに参加した沼田、木口、そして愛に枯渇し、信じられるものを持たない美津子もまた自らの生きてきた時間を振り返る。
ガンジスの河に生まれ死に行く人々を見つめていると、人は心の中に溜め込んだ思いを全て吐き出してしまいたくなるのだろうか!

遠藤周作は、作中人物の一人である大津に自己の思いを語らせている。
神父になるため、神学校で学んでいた彼が批判された汎神論的な感覚「日本人としてぼくは自然の大きな命を軽視することには耐えられません。いくら明晰で論理的でも、このヨーロッパの基督教のなかには生命のなかに序列があります。
よく見ればなずな花咲く垣根かな、は、
ここの人たちには遂に理解できないでしょう」
「神とはあなたたちのように人間の外にあって、仰ぎみるものではないと思います。それは人間のなかにあって、しかも人間を包み、樹を包み、草花をも包む、あの大きな命です」
「中世では、正統と異端の区別があったが、今は他宗教と対話すべき時代だ」…
など大津の言葉から、遠藤周作が生涯「日本人にとっての基督教」とは何かを問い続けていたのだとわかった。

神父になれなかった大津。朝の光の中を、彼がアウト・カーストの老婆を背負ってガンジス河に歩く姿が心に残った。
遺体にカメラを向けた三條の代わりに殴られ危篤となった大津の「玉ねぎ」が転生するのはもしかしたら美津子なのでは?…と思ったが、あまりの唐突な終わり方に正直驚いてしまった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年9月17日
読了日 : 2023年9月17日
本棚登録日 : 2023年9月17日

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