ツリーハウス

著者 :
  • 文藝春秋 (2010年10月15日発売)
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本棚登録 : 1466
感想 : 272
5

凄い!!圧倒的な物語だった。
新宿角筈にある『翡翠飯店』の三代に渡る年代記。
祖父の死によって物語は始まった。
うちの家族は何かおかしい、「へん」と感じる孫の良嗣。
てんでバラバラな家族、無関心無干渉な両親、祖父母は満州からの引き上げ者だったらしい。知らないことが多すぎる。
家族のルーツを探すために良嗣は祖母と一緒に祖父母が出会った異国の地を旅することに。
派手さはなくてむしろ角田さんにしては抑え目の語り口で物語は淡々と進んでいくのだが、それが返ってずっしりとした存在感で僕の心に突き刺さってくる。
祖父母は戦争から生きるために逃げた。逃げて逃げて逃げっぱなしの人生だった。
敗戦そして終戦、日本へ引き上げの途中での出産で生まれた良嗣の父親の慎之輔。

そういう時代だったのだ。
僕の母親は戦争で疎開中の上海で生まれた。
うちの家族もつながりが希薄だったような気がする。

連合赤軍による浅間山荘事件、上野動物園のパンダ、高度経済成長、昭和天皇崩御、バブル崩壊、阪神大震災、オウム真理教地下鉄サリン事件。
昭和から平成へ時代史をなぞるように家族の物語は進んでいく。
自分自身が生きてきた時代背景と重なり合って父と母のことを思い出す。
よく考えると僕だって両親の人生のことはよく知らない。
ただこうして今も裕福とは言えないけどそれなりに生きているのは両親のおかげだと思う。
バラバラに見えても家族は繋がっている。家族ひとりひとりにドラマがあり歴史がある。
どっしり重い根っこはなくともこれからの希望はある。
樹々の枝のように曲がりくねりながらも伸びていく。
それが家族なんだろうなっと思った。
読み終わったあと、じんとした熱い感情とともに、静かな感動の波がやってくるそんなずっしりとした重みをもった物語でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 角田 光代
感想投稿日 : 2010年11月16日
読了日 : 2010年11月13日
本棚登録日 : 2010年11月16日

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