荒野のおおかみ (新潮文庫)

  • 新潮社 (1971年3月2日発売)
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本棚登録 : 1120
感想 : 65
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人は誰しもいろいろな側面を内に持っている。ハリーはヘルミーネと出会うことで、自己の諸側面について気づき、洞察を深めていく。その中には、自身が否定してきたものと相反する矛盾した自身の姿もある。たとえば、反戦思想を唱え人道を叫びながら、裕福な身分のまま亡命し個人の活動に耽っている自分、自殺志願者である自分についてである。

物語で、ハリーの矛盾する己の存在への葛藤は、ヘルミーネによって解消される。
しかし、現実はそうした自己の存在に気づくことは容易ではない上に、気づけたとて向き合うことは非常に勇気のいることである。多くの人は気づいていなかったり、気づいても無意識に知らぬふりをしてしまうだけで、実は誰しもが、未だよく知りえない、向き合えない自身の側面を持っているのだと思う。この物語は荒野のおおかみに限ったものではなく、誰しもが持つ自身についての物語なのだと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2018年12月31日
読了日 : 2018年12月30日
本棚登録日 : 2018年11月30日

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