結末のバックにベートーヴェンの『荘厳ミサ』が湧き上がるように書き込まれてあり、救われた気がした。
解説にもあるようにそこに作者の意思もあるのだろう。
一人の人間として悪者といえども心の震えはあり、いつ滅びるかと不安にさいなまれている生き物なのだと。
当時(「白い巨塔」が連載されていた頃)、社会派小説は流行っていて私は松本清張氏を多く読んでいて共感や憤りを経験していたにもかかわらず、今回はまいった、あまりの臨場感に。
どろどろした人間関係に憤慨して読んでいると、胃がん手術のリアルさ、医師の頭の下がるような執刀の様子。かと思と法廷の緊迫したやりとり。大阪の商人のドラマチックな展開。
悪人の代表のような財前五郎、ヒューマニズムの、あるいは神のような存在の里見脩二。わかりやすい描きかたに舌を巻く。うーん、その他の登場人物もしかり。
「生み坊主のようにぬるりと頭をひからせた」財前の舅の又一。「鶴のような痩身」の解剖の大河内教授などなど。まるでアニメのようといってもいい。
しかし、作者山崎豊子氏は取材、予習と大変苦労された。だから内容に齟齬がないのだろう。また、一旦、第一審までで筆をおき、二年後続編を書いたということは、読者の反響、社会的影響によるという。
やはりすごい小説だ。大反響だったことは知っていたが、やっと私が読めた感。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
2004年
- 感想投稿日 : 2021年9月15日
- 読了日 : 2004年5月18日
- 本棚登録日 : 2021年9月15日
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