ハンニバル・ライジング 下巻 (新潮文庫)

  • 新潮社 (2007年3月28日発売)
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本棚登録 : 1003
感想 : 85
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レクター博士はなにゆえ怪異な人物になったか、の興味だけでは終わらない意表をついた小説だった。

 そのひとつ、前半のヨーロッパ戦線における少年時代のハンニバルの経験は、ミーシャという妹ともに『火垂るの墓』を髣髴させる、戦争のいたましさ。これはおぞましさも加わって。

 トマス・ハリスも1940年生まれ、戦争の悲惨さは記憶としてはっきり経験していないと思う。知らないことをありがたく思うだけではいけない。書いても書いても語りつくせないを書く作家魂。

 ふたつめは日本文化吸収のこころみ。源氏物語、紫式部にあこがれを持ったらしい。日本の時代がかったエッセンスが加わったごった煮で、相変わらずこそばゆいような表現ながら、いやではないくらいに研究してある。

 考えてみればあだ討ち、いくさの首切り腹きりは時代小説のジャンル。これも決して尋常ではないのだ。さすが人肉食はない(はずだ)。

 『レッド・ドラゴン』『羊たちの沈黙』『ハンニバル』、それぞれ比喩として読むのだけれど、人間のこころの旅は深く長く何処までも行く。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2008年
感想投稿日 : 2021年8月22日
読了日 : 2008年7月1日
本棚登録日 : 2021年8月22日

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