戦後の日本では貴族(華族)制度が撤廃されたため
かつての貴族たちは、世襲財産保護の特権を失うことになった
中でも、芸術などに夢を見て
まともな生活能力を身につけなかった者たちは
贅沢に慣れた身ゆえ、浪費をあらためることもできず
とりあえずは家財道具を売り払って食っていくしかなかった
こういう没落貴族を題材にした小説には
太宰治の「斜陽」や、三島由紀夫の初期作品のほかに
この、川端康成の「舞姫」などがあげられるだろう
芸術評論家の矢木元夫と、舞踏家の矢木波子は夫婦である
しかし戦争が終わってからというもの、その関係は冷え込む一方だった
上流家庭に生まれ、贅沢が当たり前になってる妻と
もともと書生あがりの入り婿で、ケチな性格をしてる夫では
まあ合わないのも当然なんだけど
それであんがい、日本が戦争に負けるまで
黙ってさえいれば家庭内のバランスは上手くとれていた
戦後、家計が苦しくなるにつれ
互いに抱えた夫婦の不満も、徐々に噴出してくるのだが
そこでまず明らかになったのは、家族観の違いである
たとえバラバラになっても、家族は家族だという夫に対して
妻は嫌悪感をつのらせることしかできなかった
そこに露呈されたのは
自由平等を建前とする社会に隠蔽されてなお存在する階級意識であり
また、異なる階級の考え方をけして認めない人間というものの
ひとつの原理であった
そういう現実にひざまづき、受け入れることを仏の道と呼ぶならば
それに逆らうことはたしかに魔道と呼べるわけだ
- 感想投稿日 : 2019年9月12日
- 本棚登録日 : 2019年9月12日
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