「奇跡の人」である主人公・克己にまったく同調することが出来なかった。
どんなに記憶をなくしても、人間としての本質は変わらないということなのだろうか。
失われた過去を知りたいという気持ちは理解できる。
自分がどんな人間だったのか。
自分はどんな生き方をしてきたのか。
わからないままでは落ち着かないだろうし、やはり知りたいという気持ちは誰にでも起きることだろう。
けれど過去を掘り起こし、過去の事実を知った後の克己にはひたすら嫌悪感しかない。
過去にあった出来事を知ることはできる。
でも、どんなに頑張ったとしても時間を遡ることはできないのだ。
他の人たちが過ごしてきた時間をなかったことになんてできない。
感情的で自己制御がまったくきかずに暴走する克己。
執着心だけは誰よりも強く、そして彼に見えているのは自分だけだ。
聡子を大切に思う気持ちなんて感じられない。
聡子の幸せなんてどうでもいいのだろう。
克己の欲求は馬鹿らしいほどに単純だ。
聡子をそばに置きたいからつきまとう。
自分が聡子を必要としているのだから、もしかしたら悪いことなのかもしれないし許されないことなのかもしれないけれど、聡子につきまとう。
だってどうしてもその思いを抑えることは出来ないから…。
中盤までの自立しようと頑張っている克己。
徐々に世間にも慣れ、前向きに頑張っていこうとしていた克己。
そのまま未来を見つめ歩いていく克己でいてほしかった。
人間の弱さをこれでもかと見せつけてくるような、後味の悪さが残った物語だった。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
ミステリー
- 感想投稿日 : 2017年4月9日
- 読了日 : 2017年4月9日
- 本棚登録日 : 2017年4月9日
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