広告代理店営業部長の佐伯が若年性アルツハイマーにかかり、記憶が失われていく様子、周囲の人々を描いている作品。
非常に重いお話で、最初、読み進めるのが本当に苦しかった。
記憶が失われていく、自分が自分でなくなる恐怖。周囲の目・表情を窺う、常に気を張り続ける主人公。
ミスをしないように、必死でメモをとり、まとめ、オリジナル名刺を作る。その必死さ、焦り、苦悩、恐怖…怖いほどによく描かれていて、苦しく切ない。
枝実子の想いもまた同様。介護者には介護者の(正確にはまだ介護者ではないが)覚悟が必要であり、想いがあるのだ。それが枝実子の言動に如実に表現されており、切なかった。
また、夫婦の愛情は確かで、温かく、でもだからこそ、切ない。娘の梨恵と孫の芽吹への愛情もまた確かなもの。娘夫婦への夫婦茶碗へ込められた、強く温かな愛。
考えさせられる。
自分がアルツハイマーになり、死と自分が自分でなくなる恐怖とどう向き合うべきなのか。―私にとって、彼でいう陶芸は何?
パートナーがアルツハイマーになったとき、私は枝実子のように強くいられるだろうか。逆に、枝実子のように想ってくれるパートナーと一緒にいられるのか?
アルツハイマーに理解のある人でありたい。安藤のことばや生野のことばがどれほど救いであったことか。―若年性アルツハイマーを私はどれだけ知っている?
会社を去るシーン、ラストシーンはぼろぼろに泣いた。
重いお話だから勧めにくいけれど、でも読んでほしい本。
生と死、記憶がいかに大切か、家族への愛――。
人生を生きていくのに大切なものが詰まっている一冊だ。
- 感想投稿日 : 2013年11月25日
- 読了日 : 2013年11月25日
- 本棚登録日 : 2013年11月25日
みんなの感想をみる