クリスマスイブ。英国、アドルスフィールド。@「ゴーストン館」という豪壮なお屋敷。南アのダイヤモンド鉱山で巨万の富を築いたシメオン・リー老翁が喉を刺されて惨殺される。密室殺人。
おりしもクリスマス。同家には、シメオン翁のもとに、息子たち夫妻が集っていた。だが、リー家の4兄弟は互いに反目し合う。父シメオン翁に強い憎しみを抱く者がおり、巨額の遺産をめぐる打算や思惑もぶつかる。
容疑者は多い。内戦下スペインから来訪した美貌の娘(自称シメオンの孫娘)や、南アから来たという謎めいた青年、さらには付添住僕も。
お屋敷の内で、兄弟の愛憎がせめぎあう様は、横溝正史「犬神家の一族」を思わせた。
ポアロがこの難事件の謎に迫る。10人近い容疑者ひとりひとりに訊問する。この、オーソドックスというか丹念すぎる構成展開のため、中盤は、展開が重くなる。だが、終盤の「犯人」をあげるくだり、このカタルシスはやはり快い。
そして、犯人はこれまた意外な人物! 予想・想像を超えてきた。
終幕、最終章。 反目しあっていた兄弟たちの、別れと旅立ちの場面である。
このひと幕、思いがけず、胸に迫る。それまで憎しみをぶつけあっていた兄と弟が、少しだけ優しさと思いやりを示し、互いに歩み寄る。彼らの多くは、この「家」を離れることを決意、新しい土地へ旅立つのであった。
和解のやさしさと、別離のせつなさ。 すこし目頭が熱くなる気がした。
この終章だけで、これまで読んだクリスティーの小説のなかでも、お気に入りの作品となった。
- 感想投稿日 : 2019年4月3日
- 読了日 : 2019年3月31日
- 本棚登録日 : 2019年3月16日
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