新装版 関東大震災 (文春文庫) (文春文庫 よ 1-41)

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  • 文藝春秋 (2004年8月3日発売)
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 関東大震災が起こった当時のことを生々しく克明に描いています。吉村昭の作品はしばしば記録文学と呼ばれますが、本作品では小説とか文学とかいう以前に、記録そのものが読者に迫ってくるようです。

 地震により建物が倒壊し、続いて大規模な火災が起こり、人や建物までをも巻き揚げるほどの烈風が吹き荒れて延焼が拡大し、逃げ惑う人たちの荷物や体が燃え始め…… 死者20万人。繰り広げられる光景は、想像を絶するものです。

 流言飛語により自警団が暴徒化して多くの朝鮮人や日本人を殺害し、ついには千人ほどにも膨れ上がった群集が警察署を襲い、留置所に匿われていた人たちまでを皆殺しにしてしまったという事実も衝撃的です。当時の日本人が今とは別人種のように残虐だった訳ではないでしょう。人々の不安が高まれば、今でも同じようなことが繰り返されてしまうのかもしれません。

 さらに、大杉事件も異様です。これにはオウムによる坂本弁護士殺害事件を連想させられました。小さな子どもまで殺してしまったのですから! 何によって事件が引き起こされたのか、本当のところは分からないと思います。組織の上部への忖度があったのかもしれません。ごく普通の善良な人が組織の力学の中で取り返しのつかない犯罪を起こしてしまうことは、オウムの事件などでも見られたことです。

 ところで、東北での大震災が起こってから七年が過ぎました。震災直後には津波の衝撃的な映像がテレビやインターネットに溢れていましたが、最近では見かけません。忌まわしい記憶を忘れたいという心理が働いているのではないかと思います。しかし、それでは大きな犠牲が将来への教訓として活かされないでしょう。

 東海地方や首都圏でも大きな地震が来る可能性が高まっていると思います。これに備えるためにも、この本に記されたような貴重な震災の記録は、少しでも多くの人に読み継がれるべきものだと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エトセトラ
感想投稿日 : 2018年11月22日
読了日 : 2018年11月22日
本棚登録日 : 2018年11月22日

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