「ぼく」と「オスカル」の書き分けは何なのだろう…?声の代わりに太鼓を叩き、音のない歌でガラスを割る、3歳で自ら成長を止めた男の子の語り。精神病棟からの回顧録はどの程度信頼できるのやら。
難しいやら意味が分からないやら映画がグロいやら散々な前評判(?)を念頭に怖々読んでみたが、そこまで頭がおかしい感じでもなかったかなという印象。埠頭にて死んだ馬の首から大量の鰻が出て来る場面は、文字で読む分にはインパクトもそれほどなく、その後の母親の辿る道が只々哀れ。とはいえ息子を放って従兄と関係を持ったり、夫の過去の過ちを攻め続けたりと、同情できない面ばかりだが。
比較的安定した精神状態の主人公の軽い自己紹介から始まって、祖父母の交わり、母親の誕生と死、そして自分の生い立ちという風に、時系列は割としっかりしている。猥雑な「悪のビート」に辟易しながら行き着くは、続き物としては完璧過ぎるラスト。二つの対戦の最中のダンツィヒが舞台ということで、雰囲気は常に張り詰め、穏やかでない。障害者の視点や彼らの描く世界を期待して読むと期待外れだが、名高い世界文学たる所以は十分にあると思う。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2021年8月30日
- 読了日 : 2021年8月30日
- 本棚登録日 : 2021年8月30日
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