葉隠入門 (新潮文庫)

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またやってしまった、内容未確認予約文庫。「憂国」のような葉隠的な小説を読むつもりでしたが、三島由紀夫の評論的葉隠、熱い想いの一冊でした。200p強のうち、97pからは、付「葉隠」名言抄 笠原伸夫訳 という構成です。前半の葉隠入門で取り上げられた項目を、原文と現代訳で確認できるようになっています。
葉隠を読む日が来るとは思っていませんでしたが、せっかくなので、読ませていただきました。
まず、三島由紀夫はプロローグで、戦後と反時代的立場を支えた書物であり、行動の知恵と決意がおのずと逆説を生んでいく、類のない不思議な道徳書としています。彼の文学の母胎であったとします。
数度読み直しながら読了し、三島由紀夫の葉隠入門より、葉隠の方が読みやすいし、わかりやすいという解説ならざる逆説を生んでいるようでした。
葉隠は、江戸中期に、佐賀鍋島藩士・山本常朝が武士の心得を口述し、同藩士・田代陣基が筆録した物。7年かけた、座談の筆記。ですので、正式名称は、「葉隠聞書」。常朝は焼けと言ったのに、陣基がこっそり取ってあったとか。葉隠序段に、今の殿(四代目吉茂)が勉強しないでわがまま勝手でこまる。藩の伝統も知らず、統治にも身が入らない。とあり、せめて何かの役に立てば、と思い立ち、藩の誓願をまとめはじめる、とあります。
葉隠無知だった私は、葉隠は有名な武将とか江戸幕府の重鎮が、まとめ上げたものと思っていたので、九州の一藩の筆録という事実に一番驚きました。
そして、一、現代に生きる「葉隠」で、今の日本の世相との類似性を説明しています。葉隠の成立時は、江戸中期、案外太平の世なのです。天皇制解体、世界大戦敗戦後、経済成長した日本と背景は似ているのかも知れません。
男女の脈拍の差がなくなってきたという医学的な事実。また、芸術に対する厳しい批判があります。芸は、身を滅ぼすとまで、技芸者は侍ではないとも。
三島由紀夫は文学という芸能を担っており、葉隠との相剋にしばし悩むことになります。
次に、ニ、「葉隠」四十八の精髄 として、葉隠の名言を48項目に分けて、三島由紀夫の解説となります。
「武士道というは、死ぬ事と見つけたり」という一番有名な一節があります。続きを読めば、常に朝夕死を覚悟すると、武士道が身につき、一生ご奉仕できるとなります。死ぬ気で物事に向かう事、そして、死を自分で選択できるようにする事を聞書を通して伝えているのかと思います。
葉隠の中には、現在の組織の中でも充分に活用できる上下関係の在り方や、部下に対する注意の仕方、誉め方、上司への対応方法など具体的なものが多くあります。日常生活での振る舞いについては、欠伸を止める方法、翌日の準備は前夜のうちに、男のたしなみとしての身支度について、人を訪ねる時の注意事項等、すぐに役立つ豆知識まであります。
恋愛は、忍ぶ恋がベストであり、男色についてまで、注意事項をあげます。お付き合いするのは、一人にしなさい、両刀はダメですって書いてあります。常朝さんという方は、現実的な気配りの方だったと思います。
読んでいて、三島由紀夫の「葉隠入門」も案外まとまりがないんじゃないかと思っていたのですが、
私もさっぱり何を書いているのかわからなくなってしまいました。「葉隠聞書」そのものが、扱う項目が細かく多岐に渡り、時折、さっきの話と逆じゃないの?みたいな事もあり、聞書の限界点があるのかななどと言い訳を思いつく始末です。全部わからなくても、自己啓発的なところは、なかなかわかりやすい言葉で訳されいて、現在の啓発本にも書かれていそうな事も多く、役立ちそうなところを活用すれば良いのかなって事で。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新潮文庫
感想投稿日 : 2023年6月8日
読了日 : 2023年6月8日
本棚登録日 : 2023年6月8日

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