八日目の蝉 (中公文庫 か 61-3)

著者 :
  • 中央公論新社 (2011年1月22日発売)
3.87
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本棚登録 : 21601
感想 : 2379
5

2018/11/4読了


岡山が舞台とか、女性の「母性」の物語とかで
話題となり、大ヒットにもなった作品。
自分は映画の方を先に見、今更ながら原作を
読む次第となりました。
映画評の方をしっかり書いたので、それを踏まえつつ
読書評も書いていく。


希和子の逃亡劇と、(育ての)親としての
惜しみない愛をささげる前半と
事件の被害者として「普通」ではない人生の中
また自身も岐路に立つ薫/恵理菜 の後半。


解説にあった「生理的犯罪」というのがしっくり来るが
希和子の欲望から生じた罪。
逃げつつ、薫を育てつつ(世話よりも育てるという方かな)
自分の幸せのためではあるけど
色んなものを見せたい、食べさせたい、聴かせたい
薫が幸せになりますように、だけが祈りであり欲望だった。
許されることではないけれど、本来の生き方とイレギュラーな
小豆島での生き方。
どちらもそれなりの愛はあれど、希和子の母性と純真な愛情は
確かにそこにあったのではないだろうか。


単純に母親にふさわしい性質だったのだろう。
溢れんばかりの幸せを、薫に授けるために。そして
薫と離れないために。大金を手放してまでも、逃亡を選んだのだから。


しかし、ストーブのついた部屋に赤子を残して外出する元の親を
信じられないなと(映画評では)責めようと思ったけど
(今もそう思うけど)ヒステリックな性格や苦労のある生活で
いっぱいいっぱいなとき、子育てからほんの少しでも距離を取りたいと
思うときもあったのではないだろうか。という視点も最近少し湧き出した。



映画は、小説で希和子が授けたいと願った「美しい風景」をたっぷり含んでいる。
映像なので当然だが、小説は希和子の内情、怯えや不安が多いので
若干だけど映画よりも余裕がなさそうに見えた。が、それこそ成長する我が子に
苦心する母の像でもあって、こちらはこちらで「愛情」をしっかりと
反映しているようだ。


恵理菜は被害者で、普通でない自分、普通を奪った希和子
受け容れてもらえない実の家族
あらゆるものを嫌い、がんじがらめの中、頼りのない男性の子供を身籠り
八方ふさがりになってしまう。
呪いのような境遇の中、千草と共に過去と対面しようとする強さを得る。


正直この小説は誰一人として幸せになることは無い。
フェリー乗り場にて希和子だけが光の中にかつての娘の姿を見るくらいの
ささやかさではあるが
未来はきっとつらいのは目に見えている。
けども、かつての4年間は母と娘にとっては存在していたということだけが
本来見ることができない世界にいたということだけが
この物語の、「8日目」という幸福なのかもしれない。


とても暗く、辛く、けども美しい
そういう小説であると思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 恋愛・青春
感想投稿日 : 2018年11月6日
読了日 : 2018年11月10日
本棚登録日 : 2018年11月6日

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