抱擁、あるいはライスには塩を 上 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (2014年1月17日発売)
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本棚登録 : 1943
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神谷町に三世代で棲む柳島家には変わった教育方針があり、それは大学入学までは学校に通わせないというもの。子どもたちは家庭教師の元で勉強をし、それ以外の時間は思い思いに家で過ごす。そんな浮世離れした一族だが、世代を経るにつれて少しずつ変化が訪れる──。

柳島家を何世代にも渡って自分の目で見てきたかのような江國さんの筆致力。章ごとにひとりひとりにスポットライトが当たり、現在と過去を行き来しながら物語は進んでいく。世間に馴染めず元の住まいに戻ってくる柳島家の人たちは、人間らしいというよりはどこか動物的な、帰巣本能に従っているように感じた。まるでここでしか生きられないよう育てられているかのように。百合の元義家族のほうがおかしいことは誰の目にも明らかであるのに、世間との交わりを絶ってきた百合自身にはそれが分からないことにはなんだかやるせない気持ちになった。閉じられた世界で生きることの幸福と絶望が上巻では描かれてる。

本を閉じても、図書室の空気、食堂室の鳩のステンドグラスをすぐそばで感じている。これから彼らはどうなるのだろう。下巻も楽しみ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日常
感想投稿日 : 2023年3月2日
読了日 : 2023年3月1日
本棚登録日 : 2019年5月29日

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