特別な早期幼児教育によって、優秀な頭脳は作られる―――近松吾郎は研究をすすめ、教育システムを確立。そしてGCS幼児教育センターなるものまでができ、そこに入学した子供達の中から天才少年少女が多数現れた。しかしながら、そのセンターに通っていた子供が同時期に4人、気が狂ったという穏やかでない噂もあったのだ。タクシードライバーの野上雄貴は、そんな疑惑のあるGCSからの突然の就職あっせん話に戸惑っていた。何を隠そう野上自身、GCSの幼児教育で育てられた子供、そして・・・近松吾郎と愛人の間に生まれた子供、つまり近松の息子だったのである。
早期教育がどうこうというよりは、倫理観をとわれる作品だった。天才少年と障害者、姿も形も双子でほぼ同じ、どちらかしか救えないとしたらその時人はどうするか・・・?「どちらも同じ命、選べるわけがない」と本当に心から答えられる人間は、一体どれくらいいるだろうかと痛いところをつかれた感じだった。つけてはいけない優劣を、人はどうしてもつけてしまう。この物語のクライマックス、健康な心臓と欠陥のある心臓を交換されたという当人への告知場面は、本当に胸が痛い。しかしながら、知ってしまったが故、罪の意識にさいなまれてしまった僅か10歳の子が「(心臓を)返しますから!」と悲痛な叫びをあげる横で、「これで俺は近松吾郎と同じにならなくてすむ」と自分のことしか考えていない主人公にはがっくり。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
文芸本(日本)長編
- 感想投稿日 : 2010年1月4日
- 読了日 : 2010年1月4日
- 本棚登録日 : 2010年1月4日
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