精巧な生命の誕生
大学勤務の優秀な産婦人科医である曽根崎理恵助教は閉院間近のクリニックで5人の患者を診ていた。いずれも一般的な”正常”な状況ではない妊婦であり、自らの中で発生する生命に思いを巡らせる。曽根崎医師は彼女らの医師を尊重しつつ、一歩引いた立場で淡々と対応する。
まだまだ発生は人智でもって干渉できない領域であることを実感した。
たとえ人工授精したとしてもその後の着床や卵割に至る発生過程を進行させていくことは難しく、
懸命に不妊治療に励む妊婦の隣で予期せぬ妊娠を拒む人もいる。
それに対して熱血医師がい落ちの発生を尊ぶ価値観を押し付けるわけでもなく、医学的な見地からの意見と技術の提供に終始する。
色々なスタイルの医師がいて良いと思うが、個人的には本書のような態度が医師としては望ましいと思う。
ただし、患者側のリテラシーを向上する働きかけは必要である。
知らなかった、知らされなかったからこのような判断になってしまった。知っていたら別の選択をすることもできただろうに。
自身の治療とはちがい、別個の存在の可否を決定できてしまう立場は辛い。
もちろん親個人の人生もあり、そこに子どもをどう存在させていくかは必要に応じて保護者となる者が価値観をぶつけあっていったほうが良いと思う。
同じ状況でも、人の数だけ価値観と結論がある。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
フィクション
- 感想投稿日 : 2015年4月29日
- 読了日 : 2015年4月29日
- 本棚登録日 : 2015年4月29日
みんなの感想をみる