木洩れ日に泳ぐ魚 (文春文庫 お 42-3)

著者 :
  • 文藝春秋 (2010年11月10日発売)
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感想 : 1051
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これは何のジャンルになるのだろう。ミステリーのようなロマンスのようなサスペンスのような、でもどれとも違う雰囲気を持つ作品でした。きっと意識的にそうしているのだと思う。

主人公であるカップルがある事件から別れを選び、部屋を引き渡す前日の一晩に探り合い、議論し、確認し合いやがてそれぞれが一つの結論に辿り着く。というお話。
本屋のPOPはどんでん返しな展開を煽るような内容で、実際それに興味を惹かれて手に取ったわけで作品の読み易さ、スピード感の大部分はこういったミステリー部分が大きく寄与している事は間違いないのだけど、この物語の本質はどちらかと言えば人間の情とか憐憫、恋愛の本質とか男女の恋愛観といった人間の内面を掘り下げる事がテーマのような気がした。

人間関係、とりわけ男女関係においては「どちらがより相手に依存してるか」によって力関係がシーソーのように上下するものですが、山岳ガイドの死の真相と並行して、アキと千明のどちらがより相手を深く愛しているのか。というポイントもシーソーゲームのように危うく揺蕩っていきます。

既に別の女性と住むことが決まっている千明と、プロポーズまでされた別の男性と別れ自暴自棄になっているようにすら見えたアキ。

勝負としては完全に女性側が不利な展開でしたが、山岳ガイドの死と自分達の出生の謎が解けた途端、千明への想いは自己愛の投影と障害のある恋愛によるものに過ぎなかったと気付いてしまい、一切の未練が急に断ち切られる描写は女性作家にしか描けない巧みさだったと思います。

そして表面的には別の女性が家で待っている「勝者」である千明ですが、実はその家を牢獄のようだと気付き将来に起きる破滅的な別れを予感してしまっていて、アキへも実は未練タラタラな所が男ってそうだよな。と思いつつ、妙に共感して辛くもあり。笑

それにしても恩田さんの作品はどれも読みやすくて、ハズレが無いなぁ〜。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2018年2月3日
読了日 : 2018年2月3日
本棚登録日 : 2018年2月3日

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