定年ゴジラ (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2001年2月15日発売)
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本棚登録 : 2283
感想 : 243
5

両親と、父の故郷である小樽に旅行に行った。「定年ゴジラ」はその旅のお供。
私は旅行に行くときは小説と決めている。旅行のあの高揚感がうまい具合に小説の内容に入っていく促進剤になるからだ。

図書館の「本日返却コーナー」にあって何気なく手に取った一冊だった。重松清さんの本は久しぶり。
元銀行員で、定年を迎えた山崎さんと、同じく定年を過ぎた同じニュータウンに住む3人の中年男性と、彼らそれぞれの家族を描いた物語。
山崎さんの家族、奥さんと二人の娘・千穂と万里との、絶妙な距離感の表現が巧い。重松さんも実際に娘がいるのだろうか。
全体的にはゆったりと物語は進んで行く。「オジさん」たちのそれぞれのキャラクターも、なんだか一癖ありそうで、また単純明快で、憎めない。

私が好きなシーンは、山崎さんが駅の近くで傘を忘れ、奥さんに傘を持ってくるついでに一杯飲もうと誘い、居酒屋で待っていると、
次女の万里が現れ、二人でぎこちなく飲むシーン。自分が同じ立場だったら…父とサシ飲みなんてしたことないけど、想像するだけで照れる。
そういった、父と娘の独特な空気感を描くのがとても巧いよね。「あーわかる」って思える。

あと、何と言っても、山崎さんが電話越しに、万里の彼でありバツイチの義彦に対して、熱く思いを伝えるシーン。
山崎さん、不器用で口下手でアマノジャクなんだけど(ここ、私の父とも似てる)、それだけに思いは伝わって来る。

終盤、パソコンを一生懸命覚える山崎さんの場面。60歳そこそこの男性って、今のご時世まだまだ若いし、現役だと思うけどな。
若干、全体を通して、定年のこの彼らを「おじいさん」扱いしすぎな感もあるね。

家族のあったかさを感じる、とても素敵な一冊。地味なんだけどね。
(同じく定年の男性たちを描いた、有川浩さんの「三匹のおっさん」に比べるとやはり抑揚にはかけちゃうけどね。)
偶然にも、私も親子旅の最中なので、余計にぐっと来た。
重松さんは、親子を描くのが秀逸。
うん、これからも親孝行しよう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2015年10月21日
読了日 : 2015年10月21日
本棚登録日 : 2015年10月21日

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