記録文学の金字塔。
主観を排除し、徹底して事実を拾い、構成している。
戦争がテーマの小説は、時に感傷的で、涙を誘うもので、美談に仕立て上げれているようで苦手だと常々感じている私にとって、それはとても好感の持てる態度だった。
大和や武蔵が戦列に参加する頃には、航空兵力が海上兵力に対して優位であることは既に自明であり、しかもそれを証明したのが他ならぬ日米開戦の火蓋を切った真珠湾攻撃であったことは皮肉としか言いようがない。
しかし、この「時代遅れの」巨大戦艦に投じられた膨大な資本(ヒトモノカネ)や時間、秘匿性がこの戦艦を神話的な存在にしてしまった。
A:武蔵は不沈艦である
B:武蔵が沈まない限り日本は負けない
A、Bが成立するならば「日本は負けない」ということになる。
日に日に戦況が悪化し、日本の敗戦が濃厚になればなるほど、その神話は膨張していく。
そして武蔵にとってはじめての戦闘となる「捷」一号作戦の最中に武蔵は敵機の執拗な攻撃により沈没。
呆気ないほどの幕切れ。
武蔵沈没から生存した乗組員たちも、その多くが、その後の戦闘で終戦までに命を落としている。
あとがきにこうある。
「私は、戦争を解明するのには、戦時中に人間たちが示したエネルギーを大胆に直視することからはじめるべきだという考えを抱いていた。そして、それらのエネルギーが大量の人命と物を浪費したことに、戦争というものの本質があるように思っていた。戦争は、一部のものが確かに煽動してひき起したものかも知れないが、戦争を根強く持続させたのは、やはり無数の人間たちであったにちがいない。あれほど膨大な人命と物とを消費した巨大なエネルギーが、終戦後言われているような極く一部のものだけでは到底維持できるものではない」
この巨大戦艦に関わった人々が発したエネルギーの渦のようなものを、この小説を通して私は確かに感じた。
この小説は、この巨大戦艦に関わった「無名の」「無数の」人々のエネルギーを掬い上げることに成功していると思う。
ものすごいものを読んでしまった。
- 感想投稿日 : 2017年5月4日
- 読了日 : 2017年5月1日
- 本棚登録日 : 2017年5月3日
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