冷泉家 八○○年の「守る力」 (集英社新書)

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  • 集英社 (2013年8月21日発売)
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感想 : 10
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冷泉といえば麻子という人も増えているだろうが、京都の人にとっては冷泉家なのである。京都御所の北、同志社大学に囲まれるように屋敷が今もあるが、下々の者は塀と犬矢来の前を歩くだけで中は見えない。上京区の玄武町にある。当然、御所の北にあるから「玄武」というのであって、亀が冷泉家のシンボルマークのようになっているらしい。
タイトルには「守る力」とあるのだが、一般的に何かを守る場合に参考になるような話が書かれているわけではなく、有職故実を今日まで伝えてきた冷泉家の誇り、著者なりの文化論が著されている。
「紅旗征戎は吾が事に非ず」という藤原定家(冷泉家の先祖)の言葉が引かれ、政治の事にはタッチしない、自分自身の足元をみよということだとして良い言葉のように書かれているが、公家社会から武家社会への移行期にあって天皇を支えるべき公家が現実逃避している言葉じゃないのと思わず突っ込み。
京都御苑を囲む石垣と土壁は明治になってから造られたので、幕末のドラマで御所の石垣を挟んで会津と長州が鉄砲の撃ち合いをするシーンはありえないという記述があるが、それは知らなかった。今出川通も昔はもっと狭かったらしい。和歌と短歌の違いについても、勉強になった。自分の気持ちを出す出さないという違いがあって、正岡子規が和歌を改革したと称して始まった近代詩の1つとしての短歌と型にはまった美しい日本語を組み合わせて詠むのが和歌らしい。ああ、教養がない。
明治になって天皇は東京へ移り、さらに太平洋戦争で当主を失い、華族でもなくなって、相続税や固定資産税の問題もあり、財団法人設立に至るわけで、結局、守れなかったんじゃないのとも思ったが、冷泉家には守れなかったが、これからは国が守っていくということで、広い意味では守れているのかもしれない。著者は冷泉家の伝統文化が財団法人に集約され残ったことを嬉しく思うと記しているが、そこに少し寂しさを感じるのは私だけだろうか。文化の日に読むのに相応しい本。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新書
感想投稿日 : 2013年11月3日
読了日 : 2013年11月3日
本棚登録日 : 2013年11月1日

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