冷泉家 八○○年の「守る力」 (集英社新書)

著者 :
  • 集英社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087207040

作品紹介・あらすじ

冷泉家は藤原俊成・定家の血を引く「和歌の家」として伝統と文化を守り続けている。冷泉家25代当主夫人の著者が、800年もの間、国宝や典籍を散逸することなく受け継いできた冷泉家の“秘訣"を明かす。

感想・レビュー・書評

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  • 読み始めてしばらくは、たいそうなお家柄のくせに自慢オンパレードなんて稚拙、と思っていたんだけど、それは私の醜いこころの表れ。
    うなったのは、「有識故実とは、すべて決まりことは決まりごととして、守るものだ」というあたり。「なぜそうするのかを問うことは意味がありません。昔からしているからそうする。間違えないように同じことをする。これがなによりも大事なことなのです。」(p.76)とし、この伝えられてきたことを「守る力」は、そのまま「つながる力」でもあるという。
    ここから浮かんだ自分が最近よく感じることとして「何で人はドラスティックに変えたがるんだろう」というのがある。担当が変わると旧来のやり方が一新されることが多い。しかしその一新は、果たしてよくなっているのだろうか。「変わる」ことがよいことという漠然とした印象に引っ張られるけど、改良もあれば改悪もある。どっちつかず以下に変わるのであれば、これまで間違いのなかった変わらないもののほうが優れているのではないか。
    しかし実際のところ、こうしたことを説得力もって主張するのって難しい。その点、「『昔からこうしてきたから』ということでなにが悪い」ということがもっと重用されてもいいのではないか。これってたとえば「何で人を殺しちゃいけない」みたいな問いへの答えとしても有効だと思う。理屈じゃないのよ、殺しちゃいけないものはいけないってこと。
    また、「芸術」は西洋的なもの。自分をさらけ出し、人と違うことを主張すること。対して日本文化は、和歌や俳句の文字の制限とか歌舞伎の型のように「私とあなたは一緒」にあり、それは「芸」というべきものという主張も腑に落ちた。

  • 現存する唯一の公家屋敷の冷泉家の文化は、日本人の財産だと思いました。これからも守っていただきたいです。

  • [ 内容 ]
    冷泉家は藤原俊成・定家の血を引く「和歌の家」として、その伝統と文化を京都の地で今日まで守り続けている。
    冷泉家の長女として生まれた著者によれば、冷泉家には「大事にせんとバチが当たる」「相変わらずで結構」など、独特な伝統・文化継承の秘訣があるという。
    当主夫人でしか語りえない代々のエピソードをもとに、急速に変化する現代社会の中で、我々が時代に流されず生きるためのヒントとなる“公家の知恵”、冷泉家八〇〇年の「守る力」を明かす。

    [ 目次 ]
    第1章 大事にせんとバチが当たる―守り伝えられてきた『明月記』
    第2章 そこそこやから続いてきた―「歌の家」の八百年
    第3章 「昔からそうしてきたから」でけっこうやないですか―公家の三百六十五日
    第4章 知識も物産も情報もまとめて収めて―蔵こそ公家の生命線
    第5章 “型”が守り、伝えるもの―「文化」の威力、底力
    第6章 “これはお金の問題やない”―冷泉家の四季と行事
    第7章 しなやかに強く。「相変わらず」ならけっこうや―冷泉家の人々

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • 「新しいこと」「変えること」に無条件に価値を見出す人々がいる。
    品のない価値観だな、と思うことがなんどかあった。

    この本では、公家の価値観は「『昔からそうしてきたから』でけっこうやないですか」というところにある。と紹介している。
    それがまつりごとを運営する力、有職故実というものであり、公家の力の源泉である。といういうことらしい。

    しかし、それはそれでいやなものだなぁ、とも思う。
    是々非々が「いい加減」じゃないだろうか。

    一般に男子男系で代々継ぐ、というのが「家系」というイメージがあると思うのだが、著者自身が養子をとって冷泉家を繋いだ、という人。

    「冷泉家800年の『守る力』」というタイトルだが、著者は血脈と家は違うもの、という感覚を持っているように感じられた。

    また、冷泉家は、元々は藤原氏の一人の後添いが、先妻との子供に渡すはずだった資産を、60歳近くの当主との間に作った子供に渡すよう遺言状を書かせ、裁判沙汰のあげく立ち上げたお家柄、と紹介されている。

    立ち上げ、守る力。けっこうえげつない力だったんだなあ、と感じた次第。

  • 藤原俊成・藤原定家を祖として、800年の歴史を連ねる冷泉家の歴史、和歌の伝統について、わかりやすくまとめられている。平易な言葉のあいだに、強い信念を感じる。「御文庫」という家の象徴を守るというところが一番大きかったように思う。

  • 一つの家が800年和歌の家元として続くというのは
    すごいことだけど、800年続いている理由が「これまでそうしてきたから」という、理由があってないような所に、更なる凄みを感じる。

  • 冷泉といえば麻子という人も増えているだろうが、京都の人にとっては冷泉家なのである。京都御所の北、同志社大学に囲まれるように屋敷が今もあるが、下々の者は塀と犬矢来の前を歩くだけで中は見えない。上京区の玄武町にある。当然、御所の北にあるから「玄武」というのであって、亀が冷泉家のシンボルマークのようになっているらしい。
    タイトルには「守る力」とあるのだが、一般的に何かを守る場合に参考になるような話が書かれているわけではなく、有職故実を今日まで伝えてきた冷泉家の誇り、著者なりの文化論が著されている。
    「紅旗征戎は吾が事に非ず」という藤原定家(冷泉家の先祖)の言葉が引かれ、政治の事にはタッチしない、自分自身の足元をみよということだとして良い言葉のように書かれているが、公家社会から武家社会への移行期にあって天皇を支えるべき公家が現実逃避している言葉じゃないのと思わず突っ込み。
    京都御苑を囲む石垣と土壁は明治になってから造られたので、幕末のドラマで御所の石垣を挟んで会津と長州が鉄砲の撃ち合いをするシーンはありえないという記述があるが、それは知らなかった。今出川通も昔はもっと狭かったらしい。和歌と短歌の違いについても、勉強になった。自分の気持ちを出す出さないという違いがあって、正岡子規が和歌を改革したと称して始まった近代詩の1つとしての短歌と型にはまった美しい日本語を組み合わせて詠むのが和歌らしい。ああ、教養がない。
    明治になって天皇は東京へ移り、さらに太平洋戦争で当主を失い、華族でもなくなって、相続税や固定資産税の問題もあり、財団法人設立に至るわけで、結局、守れなかったんじゃないのとも思ったが、冷泉家には守れなかったが、これからは国が守っていくということで、広い意味では守れているのかもしれない。著者は冷泉家の伝統文化が財団法人に集約され残ったことを嬉しく思うと記しているが、そこに少し寂しさを感じるのは私だけだろうか。文化の日に読むのに相応しい本。

  • Webサイトでたまたまこの本のことを知り、おもしろそうかなと思って買ってみたのですが、期待を裏切られませんでした。
    藤原俊成・定家を始祖とし、800年の歴史を連ねる冷泉家がどのような歴史の変遷を経てきたのか、和歌の伝統をどのように京都の地で守ってきたのかが非常に読みやすい文章で書かれていて、勉強になりましたし、楽しめました。
    日本の文化について世界の関心が深まってきている中、その原点と言えるこのような伝統文化は、これからの時代にもぜひとも守っていかなければいけないと思わされました。

  • 藤原俊成、定家につらなる歌の家の冷泉家を通じ、公家の役割や暮らし、有職故実に基づく伝統を変えないことによる安定について考えることができた。
    さすがに庶民とは暮らしも文化・教養も、時間すらも違っているように感じた。
    和歌と短歌の違いなど、教養を深める点で参考になることも多かった。
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著者プロフィール

昭和22年7月29日、京都府に生まれる。昭和48年京都女子大学大学院日本史専攻修士課程修了。(財)冷泉家時雨亭文庫事務局長。冷泉家24代当主の長女、25代為人夫人。高校教師を経て、昭和56年時雨亭文庫設立とともに事務局長となる。冷泉流歌道「玉緒会」指導。著書に『冷泉家の年中行事』(昭62 朝日新聞社)『冷泉家歌ごよみ―京の八百歳』(平18 京都新聞社)『花もみぢ―冷泉家と京都』(平23 書肆フローラ)など。

「2004年 『久保田淳座談集 心あひの風 いま、古典を読む』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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