五体不満足 完全版 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2001年4月4日発売)
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乙武洋匡(1976年~)氏は、先天性四肢欠損(生まれつき両腕両足がない)という障害を持って生まれたが、公立の小中高で普通教育を受け、早大政経学部卒、スポーツライター、新宿区の非常勤職員、東京都教育委員、NPO法人グリーンバード新宿代表等を務め、作家、タレント、政治活動家等として活動している。2022年の参議院議員選挙において東京都選挙区から立候補したが、落選した。
大学在学中の1998年に発表された、乙武氏の半生を綴った本作品(一部追記の上、2001年に文庫化)は、出版部数600万部を超える大ベストセラーとなり、教科書にも掲載された。
私は普段、ノンフィクションやエッセイを好んで読み、今般、過去に評判になった本で未読のものを、新古書店でまとめて入手して読んでおり、本書はその中の一冊である。
読み終えた印象としては、(教科書にも載るくらいなので)とても読み易く、加えて、意外に多くのことを考えさせられた。
というのは、まずは、本書が一般的にどのように読まれるのかを想像してみると、乙武氏が、持ち前の明るさ・前向き思考・積極性を活かし、かつ、両親・先生・友達の理解と支えを得て、充実した20年間を生きてきた記録としての本書は、乙武氏が重度の障害者であることを無視するわけにはいかないし、よって、我々読者も頑張って前向きに生きていかなくてはいけない(障害者であろうと、健常者であろうと、それぞれの立場で)と、背中を押してくれるものとして読まれるのだろう。実際、乙武氏も、単行本として発表したときは(漠然とでも)そのように考えていたと思われる。
ところが、である。文庫版には、20頁ほどの第4部「新たな旅路~社会人時代」とエピローグが加えられ、単行本を出版した後の2年半の環境の激変と自らの心の変化が書かれており、実は、この部分に考えさせられることが多いのだ。有名になったことによってクローズアップされることになった、生まれてから大学生半ばまでの(純粋無垢な)「オトくん」と、20歳を過ぎて現実を生きる乙武洋匡とのギャップ、本に書かれた(障害者であるとはいえ)一個人に過ぎない乙武洋匡の経験や感情が、障害者一般のものであると早合点されること、障害者であるが故に、将来福祉の方面に進んで、障害者のリーダーとしての役割を期待されること等、乙武氏は、本を書いていたときには想像だにしなかったであろう様々な苦悩に直面し、その葛藤が赤裸々に描かれているのだが、それらは、乙武氏の問題であると同時に、乙武氏を取り巻く我々の問題でもあるのだ。子供が本作品を読むのなら、第3部までを素直に読めばいいが、大人が読むのであれば、それ以降の部分こそが実は重要であると思われる。
私は乙武氏のその後について多くを知らないが、乙武氏個人の20数年間の記録としては、大変面白く、読む意味のある作品と言えるだろう。
(2023年4月了)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年4月17日
読了日 : 2023年4月17日
本棚登録日 : 2023年2月26日

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