つむじ風食堂と僕 (ちくまプリマー新書)

著者 :
  • 筑摩書房 (2013年8月7日発売)
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本棚登録 : 1719
感想 : 172
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『月舟町三部作』番外編。
今回の主役は、サンドイッチ屋〈トロワ〉のご主人の息子・リツ君12歳。
「生きてゆくことは、毎日、少しずつ〈むかし〉をつくってゆくこと」
そして〈むかし〉はやりなおしが出来ないもの…。
リツ君、のっけからなかなか大人びたことを言いますね〜。
悩み多きリツ君は〈つむじ風食堂〉で食事をしながら、食堂の常連客たちに仕事について尋ねる。
仕事の話から始まって、商店街、町、幸せ、将来…とみんな語り出すと止まらない。
自分の仕事に誇りを持っている大人たちの話を真剣に聴くリツ君。
リツ君の物語はほのぼのと温かな人たちに囲まれて、これからもずっと続いていくんだね。

常連客たちがリツ君を子供扱いしないで、対等に話しているのが読んでいて心地良かった。
人生は楽しいのが一番。
気の合う人たちと語り合いながら、美味しいものを「美味しいね」と言いながら食べる。
これこそがシアワセなんだと思うよ。

『ちくまプリマー新書』の記念すべき200冊目にあたる今作。
なんと200冊全ての装幀デザインを吉田さんご夫妻で担当されてきた、とのこと。素晴らしい!
子供たちにリボンをかけた小箱をひとつひとつプレゼントするイメージでデザインされた、とのこと。
この話を聴いただけでわくわくしてくる。

『ちくまプリマー新書』の基本コンセプトは「子供たちにひとつだけ何かを伝える」。
「子供に語りかけるということは、語りかける前に自分自身を見なおすことであり、子供に語るべきかとは大人もまた傾聴すべきことで、大事なのは、子供とか大人とかではなく、初心に戻ること、〈最初の思い〉に戻ること」
『あとがき』に書かれた吉田さんの言葉がダイレクトに心に入ってくる。
〈むかし〉思い描いたことは何だったのか、そこから逸脱していないか…。
時折指差し確認しながら、前へ進みたい。
ちょいとひと駅途中下車して、暢気な人たちの集まる食堂で一休みするのもいいものだ。
このシリーズの新たな番外編を、またいつか読ませてほしい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 吉田篤弘
感想投稿日 : 2021年4月29日
読了日 : 2021年4月29日
本棚登録日 : 2021年4月29日

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