生きる

著者 :
  • 文藝春秋 (2002年1月29日発売)
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本棚登録 : 103
感想 : 18

平成14年度下半期(第127回)の直木賞を受賞した乙川優三郎の「生きる」を読了。
表題作と「安穏河原」、「早梅記」という三篇の時代小説が収められた作品集である。

「生きる」は主君の死に際して追腹(おいばら)を秘かに禁じられた侍が、不忠者、恥知らずといった非難を浴びながらも生き続けなければならないという、苦しみの歳月を描いた作品。
周囲の冷たい視線、嫁いだ娘からの義絶、妻の病死、そして父親の身代わりのような息子の死、とつぎつぎに襲ってくる苦難の中で、孤独な闘いを強いられる武士の悲哀が切なく胸に迫ってくる。
「安穏河原」は武士としての誇りから、浪人となって零落してしまった親子の物語。
貧窮のなかで、娘を身売りせざるをえなくなるが、そのことを後悔した父親は知り合った若い浪人者に頼んで娘の様子をそれとなく見てもらう。
そして何とか娘を苦界から救い出そうと算段するが・・・。
若い浪人者に託された後半が感動的。
「早梅記」は軽輩から出世して筆頭家老にまでになった武士が、隠居の身となった日常のなかで、失ったものの大きさを思い返すという話。

三篇とも人が生きていくなかで味わうさまざまな苦渋を切々と描いているが、その先にはいずれも一筋の光が射して終わっている。
そしてどの主人公も苦難の中で最後まで武士としての矜持や潔さを失わずにいる。
そのことで、暗鬱な気持ちに陥りそうなこちらの気持ちが、ぎりぎりのところで救われる。
またどの話も、女性が重要な存在として描かれており、主人公の武士に劣らない覚悟と矜持の持ち主というところも大きな魅力である。
読み応えのある小説集だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 時代小説
感想投稿日 : 2010年3月4日
読了日 : 2009年12月3日
本棚登録日 : 2009年12月3日

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