この地獄を生きるのだ うつ病、生活保護。死ねなかった私が「再生」するまで。

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  • イースト・プレス (2017年12月7日発売)
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近所の知り合いに長いこと躁うつ病の息子さんがいた。いじめが原因だったようだが、詳しくは聞いたことはない。その子が何かと働きたい、働きたいっと言っていたのを思い出す。作業所がつまんない、もっとお金をもらいたいとも言っていた。作業所ではいくらもらえるの?と聞いたら、100円くらいだと言っていた。そんなこともあるのかと、これまたよくは聞かなかったけど、仕事らしい仕事ではないのだなと思った。

 この本を読んで心の病気をもつ人たちに対しての、自分を含めた世間の目、行政の手がいかに冷たいものかがわかった。

 仕事したいって言ったって、病気なんだから無理でしょ? 病気直すのが先決でしょ? と声には出さずとも自分はそう思っていた。

 違うのだ。働くことで病気を治せるのだ。

 ああ、なんでこんな簡単な、人間として当たり前な感情を、そんな気を起こすな、大人しくしてろと押さえ込もうとするのだろう。

 働かないこと=自分はダメ人間 という思考に著者は陥る。 
 誰の役にも立ってないと考え、自己承認欲求が満たされずに、こころを蝕む。

 著者はオーバードーズで自殺をはかることが度々あるのだが、どうやら自殺するつもりとかではなく、たぶん今の自分をなかったことにしたいだけ=リセットしたいだけなんだと思う。もちろん命は一度限りだし、ゲームのようにリセットはできないのだが、そこに思いが至らないほど、思い詰めてしまうだけなのだ。だから死にたいという感情とは違うと思う。

 
 働かなくてもお金がもらえるんだから、楽でいいよね。
 心ない人は生活保護の受給者に対して、そんなことを、悪意を感じることもなくさらりと言う。

 でも実際は働きたいのに、働こうとしても働かせないようにするケースワーカーやデイホーム従事者による負の力が働く。どうせ面倒を起こすに決まっているんだから、お・と・な・し・く・してろ!と頭を押さえる。

 もちろん書き手側の視線でしか眺めていないので、逆の目線から見れば反論も多いと思われるが、それにしてもこんなひどい差別意識で福祉事業に携わっている人がいるのか、と驚いた。

 著者がようやく働けるようになって、生活保護の中止を申し込んだときも、ケースワーカーは、どうせまたすぐに働けなくなるにきまっていると、勝手に決め込んで中止の申請を進めなかった(たぶん申請書類の改ざんをおこなっていた)

 今まで気にしたことはなかったけど、生活保護から抜け出すための手助けをしてくれる行政機関はないということなのかな?

 この人の経験を、運が良かったね、で済ましてはいけないと思う。

 この本は同じ病気に苦しむ人が読むというよりは、福祉従事者の人が読むべきだ。
 あなた方のちょっとした言動は、当人はさざ波のようにしか感じてないかもしれないれど、相手には津波のように襲いかかっていますよ。

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感想投稿日 : 2018年1月11日
本棚登録日 : 2018年1月11日

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