ニ-チェ入門 (ちくま新書 8)

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  • 筑摩書房 (1994年9月20日発売)
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『ニーチェ入門』竹田青嗣 1994初版 筑摩書房 2019.10.30

ニーチェ・ルネッサンスが20世紀半ばにマルクス思想の没落と入れ替わるように復興する。それまでニーチェの思想は使い物にならなかった。戦争という今ある世界の危機的状況の打開のための回答を
唯一マルクスだけが提示した。マルクスとニーチェは19世紀前半に君臨したヘーゲル哲学への反対者として位置づけられる点でライバル同士であったが、当時はマルクスの主張が圧勝だった。
マルクス思想はところが没落する。国家の権力を死滅させるやり方が、極端な権力ゲームの社会を作ってしまった。ポスト・マルクスとして注目を浴びるニーチェ。彼の思想は権力的なもの、権力を作り上げる力学に
対する強力なアンチテーゼとして読み直される。ポスト・モダニズムで思想でニーチェを重要視したのはフーコーやドゥルーズなど。

はじめのニーチェ p.22
ルターの宗教改革によって信仰は教会から個人の内面に移される。それによる内的な禁欲主義が強く出てくる。この禁欲主義にニーチェは批判の目を向ける。
25歳でバーゼル大学の教授になった前後で出会った、ワーグナーとショーペンハウアーという彼にとっての神に会う。
処女作の『悲劇の誕生』はギリシャ文化論だが、中身はワーグナー論だ。そして『反時代的考察』に「教育者としてのショーペンハウアー」という論文がある。
ショーペンハウアーの『意志と表層としての世界』に大きな感銘を受ける。ワーグナーとはライプツィヒを訪れた彼と知り合い、哲学と音楽を語らう仲になる。
『悲劇の誕生』と『反時代的考察』は2人の神に触発されて書いた青年ニーチェのロマン主義のかたちを如実に示す。
ショーペンがニーチェに影響を与えた思想。表層と意志。ギャンブルのゲン担ぎなど運命を左右する原因を想像させる人間の性質。それを根本原因とよぶ。
根本原因としての意志。意志とは「神」という表現をぼかしたなにか。汎神論と呼べる。人間の意志は生への意欲。
意欲は欲望。これがある限り人間の生の本質は苦悩なのだが、理性によってこれを解決できない。ただ煩悩を捨てなければ苦悩から逃れられない。
これは仏教的な考えと似ている。ショーペンの厭世哲学は新しさに欠けるが、ともあれニーチェは感動を覚える。
『悲劇の誕生』で語られるプロメテウス。その作者アイスキュロスは文明を発展させるために争いや矛盾をはじめて是認した悲劇作家とニーチェは言う。
プロメテウスが火を盗んだ罰として苦悩を被ることになるが、それを是認している。矛盾を抱えても生きようとする人間存在の本質がある。
煩悩を消すのが仏教の考えだが、ニーチェはそれを否定する。欲望は否定されるべきでないとニーチェはこの苦しみが人間の生きる理由になると考えた。
音楽だけが悲劇の本質の生きる意欲という意志を他者に伝えられる。

『反時代的考察』について p.57
青年はだれしもルソー的人間の要素を持っている。ロマン的な理想を追求したいと考えている。だが現実はうまくいかない。理想に舞い上がってもやがてはおちつく、これはゲーテ的な態度だ。
ニーチェはなんとかロマン主義を肯定したく、ルソーでなくショーペンの哲学に活路を見出す。文化的戦略。既存の文化の概念に戦いを挑むことで人間のロマン性や理想を活かし続ける
新しい可能性を与える。ニーチェは人間の目標はより高い人間の範例を生み出すことだと言う。ニーチェが目指すより高い人間の創出。これは人間をルサンチマンで平均化されることへの抵抗。
また歴史の目標を人間以外に設定することへの対抗だ。後期の超人思想へとつながる。

キリスト教批判 p.76
キリスト教の人間観の本質はニヒリズム(虚無への意志)。そのわけは思想の根本にルサンチマン(弱者の反感)を隠しもつからだ。
キリストの隣人愛は自分よりも他者を優先するという考えが自然の姿をゆがめているという。キリスト教の禁欲主義。
ユダヤ民族こそは僧侶的民族であり、弱者こそが善人という考えを徹底する。

道徳とルサンチマン p.98
誰にとっても最大の関心毎は道徳に価値がありそうに見せることだった。汝の敵を愛せよというのも顚倒を意味する。まずは自分を愛し余裕があれば他者を愛するのが自然だ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2020年3月26日
読了日 : 2020年3月26日
本棚登録日 : 2020年3月26日

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