シリーズ2作目。やはり、また手にとっていた。
精神科医・伊良部と看護婦・マユミの治療の名を借りた特殊性癖の発散と、それと一見無関係な患者の寛解過程に癒しを求めている自分がいる。彼らは症状もろくに聞かずビタミン注射を打ち続ける。心の乱れはビタミン不足が主な原因だから、と。
患者は注射を打たれた後にこう思う…「それにしても、どうして自分は言いなりになっているのか」「この診察室は観覧車だ。乗ったら一周する間、そのペースに合わせるしかない」この状態に身を置くことも治療として奏功するようだ。
今回は、各分野で相応の地位を築いてきた登場人物が、これまで何も考えずにできていたことが、突然できなくなることによる焦りと真因への気付きを描く。前作と比べて、症状がキャリアや人生に関わるものであるため、より深刻度は高い。
・「空中ブランコ」サーカス団員の主任
→空中ブランコがうまく跳べなくなる
・「ハリネズミ」ヤクザの若頭
→先の尖ったものに恐怖を感じる
・「義父のヅラ」伊良部と同窓の精神科医
→学部長の義父のカツラを剥ぎたくなる笑
・「ホットコーナー」プロ野球選手
→サードゴロの送球の制球が効かない
・「女流作家」小説家
→創作上のストレスによる嘔吐症と、
過去の作品設定とのかぶりへの強迫症
結局、あるべき姿への執着や世代交代への不安など、自分の中で、どこか無理をしていたり、薄々気付いていても目を背けたりしているのである。それが症状に現れていたと気付くことで、人生が好転していく。読後感のなんと良いことよ。
最後に、小説家の嘔吐症の真因である、渾身の思いで書いたが売れなかった長編作。何事にも無関心に見えるマユミが「わたし、小説読んで泣いたの、生まれて初めてだったから」と唐突に感想を伝えるシーンに虚を突かれ、胸が熱くなった。
- 感想投稿日 : 2023年9月24日
- 読了日 : 2023年9月24日
- 本棚登録日 : 2023年9月24日
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