空中ブランコ (文春文庫 お 38-2)

著者 :
  • 文藝春秋 (2008年1月10日発売)
3.84
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本棚登録 : 18550
感想 : 1685
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シリーズ2作目。やはり、また手にとっていた。

精神科医・伊良部と看護婦・マユミの治療の名を借りた特殊性癖の発散と、それと一見無関係な患者の寛解過程に癒しを求めている自分がいる。彼らは症状もろくに聞かずビタミン注射を打ち続ける。心の乱れはビタミン不足が主な原因だから、と。

患者は注射を打たれた後にこう思う…「それにしても、どうして自分は言いなりになっているのか」「この診察室は観覧車だ。乗ったら一周する間、そのペースに合わせるしかない」この状態に身を置くことも治療として奏功するようだ。

今回は、各分野で相応の地位を築いてきた登場人物が、これまで何も考えずにできていたことが、突然できなくなることによる焦りと真因への気付きを描く。前作と比べて、症状がキャリアや人生に関わるものであるため、より深刻度は高い。

・「空中ブランコ」サーカス団員の主任
 →空中ブランコがうまく跳べなくなる
・「ハリネズミ」ヤクザの若頭
 →先の尖ったものに恐怖を感じる
・「義父のヅラ」伊良部と同窓の精神科医
 →学部長の義父のカツラを剥ぎたくなる笑
・「ホットコーナー」プロ野球選手
 →サードゴロの送球の制球が効かない
・「女流作家」小説家
 →創作上のストレスによる嘔吐症と、
  過去の作品設定とのかぶりへの強迫症

結局、あるべき姿への執着や世代交代への不安など、自分の中で、どこか無理をしていたり、薄々気付いていても目を背けたりしているのである。それが症状に現れていたと気付くことで、人生が好転していく。読後感のなんと良いことよ。

最後に、小説家の嘔吐症の真因である、渾身の思いで書いたが売れなかった長編作。何事にも無関心に見えるマユミが「わたし、小説読んで泣いたの、生まれて初めてだったから」と唐突に感想を伝えるシーンに虚を突かれ、胸が熱くなった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年9月24日
読了日 : 2023年9月24日
本棚登録日 : 2023年9月24日

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コメント 7件

ハッピーアワーをキメたK村さんのコメント
2023/09/24

haruさん˘・ω・˘ お邪魔します
(違う眉毛にしました)

確かに人間何処かで無理していると、身体に異変を感じる事がありますね
もっと自分を大事にして〜って、身体からのサインが
お互い気を付けましょう

このシリーズ、私も読んだことがあって好きなんです
特に『空中ブランコ』
伊良部先生が、100キロの巨体で空中ブランコに挑戦するデブスイング♪が気に入っています

haruさんは、あれから本屋に行きましたか?笑

harunorinさんのコメント
2023/09/24

ハピアワさん、こんにちはー(*´꒳`*)
眉毛がカワイイ感じになってましたね笑
コメントありがとうございます♪

このシリーズ、自分と重ねて読んだりするところもあって、考えさせられますが、キャラがアレですから笑、気楽に読めて気に入ってます!

空中ブランコで、首だけ回す伊良部とか、デブスイング想像すると相当面白いですよね!
特に次の描写がツボでした。
→「あれー」伊良部が、時代劇の娘役みたいな声をあげてネットに落ちていく。しばらく鞠のように跳ねていた。

あれから本屋にですか?もちろん何度も笑
ただ、積読強迫症の兆候?が見られるので、購入は慎重に判断するようにしてます。甘めですが。

だいぶ気候が秋らしくなってきましたね。季節の変わり目、体調に気をつけて過ごしましょう。

ハッピーアワーをキメたK村さんのコメント
2023/09/24

コメディですねー
大きな白い鞠が、ボン!ボン!ボン!
「あれー」笑

積読強迫症ですねえ。。。
積読して幸せに感じる人と、ストレスになる人に分かれるみたいですよ

我々は後者ですね
未読の本があるのに購入する罪悪感、消化が追い付かなくて積読を見るだけでストレス、金銭的な損失、保管場所がなく防災的に好ましくないetc

これは積読を解消するしかなさそう!

長々とお邪魔しました
また明日から適度に頑張りましょう
失礼します=3

harunorinさんのコメント
2023/09/24

空中ブランコ、ネットで調べたらかなり前に深夜枠でアニメ化されていたようです。伊良部は謎の三態に変化するカラフルなクマらしきキャラになってました笑 ちょっと残念。横にいる看護婦マナミさんはイメージどおりでした。

積読はおっしゃるとおりですねー 罪悪感、経済的損失そして危険と。今の状態だと、本棚上方の前部に平積みしている「地図と拳」あたりからのダメージが大きそうです笑 ただ、罪悪感は冊数に比例して増しますが、手元にある安心感を買っている面もありますよね。

またウィークデーが始まりますね。適当にやり過ごせればと思います。ではでは

yukimisakeさんのコメント
2023/09/24

こんばんは、再び失礼します。実はharunorinさんが2作目も読んで下さらないかなと期待しておりました笑。
やっぱり面白そうですね!コメンテーターが発売されてたので2作目もおいおい読みます。
ヤクザの話が面白そうですね。

harunorinさんのコメント
2023/09/24

yukimisakeさん、こんばんは(*´꒳`*)
いつもレビュー拝見させていただいております。目的意識の高い選書と率直な感想がとても良いですね。コメントありがとうございます!

少し間が空きましたが、2作目も終始ニヤニヤしながら楽しく読めましたよ♪ 「ハリネズミ」の章は、ヤクザの若頭が伊良部たちに調子を狂わされて焦燥していく姿が何とも人間臭くて面白かったですね。機会がありましたら是非読んでみてください。

そろそろ、伊良部とマユミに焦点を当ててもいいような、それをやったら世界観が崩れるような…「町長選挙」もちゃんと積読されてますので、私もまた適当なタイミングで読みたいと思います。

yukimisakeさんのコメント
2023/09/25

こんにちは、勿体ないお言葉を誠にありがとうございます!
harunorinさんや皆さんのような知的だったり綺麗な文章が書けないので、思ったことを羅列しております。

今減らしてる積読が終わったら読んでみます!
3作目も待機中なんですね、流石です。
マユミちゃん気になりますね、立派な癖をお持ちで笑。
また3作目も楽しみにお待ちしてますね。
これからも宜しくお願い致します。

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