魔の山 上 (岩波文庫 赤 433-6)

  • 岩波書店 (1988年10月17日発売)
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感想 : 70
5

1924年刊。スイス高原のサナトリウムで療養生活を送ることとなった、青年ハンス・カストルプの精神の軌跡。

20世紀三大小説家のひとり、との声もあるトーマス・マンの代表作。年配の某文学系YouTuberの方が、『魔の山』はトーマス・マンの中では亜流で『ブッデンブローク家』こそ正統派だ、とおっしゃっていて、なるほどそうなのか~と思いつつも、やはり有名なので先にこちらを選んだ。何よりも、「今読みたい」と直感が働き、これがドンピシャだった。

というのは、本作で主人公の青年ハンスが、過去に想いを寄せていたプリビスラウとの関係を引き合いに出しながら、ロシアの婦人への恋心をひそやかにしつつ、あまりにも控えめな行動力で陰キャ的なやり取りをする描写に、たまらなく共感を覚えるタイミングだったからだ(汗)。
P250 「現実的に、いまのひそかな関係以上の交渉は持てないという確信、二人のあいだには越えられない深淵が横たわっていて、彼女と一しょでは彼の承認しているどんな批評にも及第できないという確信」
絶対に越えられない壁がある相手に恋をしてしまったら、こうするしかないだろうな、という行動をハンスがとるので、恋の行方が気になり、それが引力となって読み続けられた。

したがって、自分は本作の上巻をほぼ恋愛小説として読んだのだが、もちろん下のレビューや各所で言われているように、本作は20世紀初頭の思想や医学などについてつらつらと書き綴られた教養小説というやつで、読んでいて退屈な部分は確かにある。あまりにも変化のないサナトリウムの生活は、実は死と隣り合わせで、いやでも思索的にならざるをえない環境でもあり、こういった議論や語りが続くような小説には格好の舞台といえる。

しかし、数多い個性的な登場人物と人間関係の描写はなかなかに面白く、高原の景色も趣に富む。物語というよりも、こういった光景を楽しむ小説として考えていると、いつしかハンスと共に自分自身もその場にいるような不思議な感覚すらわいてきた。章の間にいくつもの節で区切られているためコツコツ読むには向いていて、この小説に取り組んでいる数日間ずっと手元のそばに置いていたので、サナトリウムの世界にどっぷりつかっていた感じが強い。その他、時間感覚についての考察は興味深い。

上巻ラスト付近の急展開は楽しくて仕方なかった。ハンス君やらかしすぎ(笑)。つくづく自分には合う小説だなぁと。下巻はもっと長いようだけど、全然イケそう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年7月10日
読了日 : 2023年7月6日
本棚登録日 : 2023年3月9日

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