伯父の励ましで壁を越えたクリストフだったが、躍り出た自由な魂を待ち受けていたのは虚偽に満ちた社会だった。
発達障害。今の日本ならそんなレッテルを貼られてしまうだろう。クリストフは、あふれる芸術のエネルギーを自由奔放に放出しようとするが、率直すぎる彼の言動はどこへ行っても受け入れられない。そして芸術に対する偽善に満ちた社会に幻滅を抱きつつ、孤独と貧困にあえぐ日々が続いていく。
いくつもの出会いがあってはトラブルって別れる、そんな流れを繰り返すなか、シュルツ老人のように心温まる交流もある。しかし結局は死別によってその関係も閉ざされ、クリストフはあるトラブルに巻き込まれてパリに旅立つことに。そこで待っていたのはドイツと変わらぬ偽りの世界だった。
苦境が長引き重苦しいうえに、文化論や芸術論のような論調の文章が続き、主人公だけでなく読者にも忍耐を強いる巻。音楽にすべてを捧げているクリストフにとって、真実ではない芸術すべてが認められない。しかし虚偽を抱えていない社会などはなく、否応なく衝突を繰り返してしまうのがもどかしい。孤独に沈むなかで、かすかに光る道標のように何度もすれ違う女性の存在が期待感を高める。そしてついにひとりの青年に出会う。その姓は……。
暗闇のトンネルをついに抜けた、解放感のあるラスト。魂の旅は続いていく。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2022年5月26日
- 読了日 : 2022年5月21日
- 本棚登録日 : 2022年3月17日
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