ナイルパーチの女子会 (文春文庫 ゆ 9-3)

著者 :
  • 文藝春秋 (2018年2月9日発売)
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丸の内の大手商社に勤めるやり手のキャリアウーマン・志村栄利子(30歳)。
実家から早朝出勤をし、日々ハードな仕事に勤しむ彼女の密やかな楽しみは、同い年の人気主婦ブログ『おひょうのダメ奥さん日記』を読むこと。決して焦らない「おひょう」独特の価値観と切り口で記される文章に、栄利子は癒されるのだ。
その「おひょう」こと丸尾翔子は、スーパーの店長の夫と二人で気ままに暮らしているが、実は家族を捨て出て行った母親と、実家で傲慢なほど「自分からは何もしない」でいる父親について深い屈託を抱えていた。
偶然にも近所に住んでいた栄利子と翔子はある日カフェで出会う。
同性の友達がいないという共通のコンプレックスもあって、二人は急速に親しくなってゆく。
ブロガーと愛読者……そこから理想の友人関係が始まるように互いに思えたが、翔子が数日間ブログの更新をしなかったことが原因で、二人の関係は思わぬ方向へ進んでゆく……。
柚木麻子の小説は、ドラマ化された「ランチのアッコちゃん」のように働く女性の前向きな生き方を描いた白柚木と「けむたい後輩」のように女性の嫉妬や独占欲や妄想などを描く黒柚木があるが、今回は女性同士の友情を描く黒柚木。
一見、仕事が出来るやり手の志村栄利子は、かつて高校の時自分から離れようとした親友に対してあらぬ噂をたてるなどして追い詰めてしまったが、また愛読している主婦ブロガーの翔子にストーカーしてしまうように女性同士の友情に過大な期待や自分の理想の親友像を押し付けてしまう病んだ部分があり、主婦ブロガーの翔子も父の介護に追い詰められると人気ブロガーのNORIの「いつでも連絡して。どんな相談でも聞くわ」という社交辞令を真に受けて大量のメールを送り付け自分の評価を他人に委ねて大事なものを見失うイタイ部分がある。
人との距離感を上手く取れなくて空回りしたり、女性同士の友情に過大な期待をし、自分の評価を他人に委ねてしまう誰もがあるイタイ部分や落とし穴、ある重要なシーンで派遣社員で志村栄利子と犬猿の仲の真織が言う「そもそも脆くない人間関係が、この世にあるのかよ。女同士だろうと、男と女だろうと、みんな同じだろうが。どんな関係も形を変えたり、嫌ったり嫌われたり、距離を測ったり、手入れしながら、辛抱強く続けていくしかねえんだよ」が読者に突き刺さります。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年12月5日
読了日 : 2022年12月5日
本棚登録日 : 2022年12月5日

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