「わたしたちはパンだけでなく、バラも求めよう。生きることはバラで飾られねばならない」
【感想】
・帯の一文にしびれた。「わたしたちはパンだけでなく、バラも求めよう。生きることはバラで飾られねばならない」今の時代に人として生を受けた時点で、皆、ただ生きてさえいればいい、というもんじゃない。疫病も戦争も飢餓の心配の無くなった人々には、日々を彩る、精神的な豊かさは必要だな、と常々思っていた。(ハラリのホモデウスにも似たようなことが書いてあった気がする。)その考えが、帯の洒落た文で言い表されており、感動した。このフレーズに会えただけで、本書を買った価値はある気がする。
・きちんと頭を使って読まないと理解できない本。論が多くて全て理解していこうとするとそこそこ難しい。著名な哲学者や思想家のコンセプトを引用し、「これはおかしい」といって批判する。その過程で、「暇」「退屈」に対する理解を深めていく、という本。そのため、各所の引用が、何を言っていて、どう筆者は批判しているかの論理構成を抑えないと、本書から知見を得るのは難しい。著名な思想家や哲学者のコンセプト理解の素養が無いと、まともに批判するのも理解するのも難しい
・audiobook.jpで読了。哲学書としては異例のベストセラーとなった本らしい。だから、audiobook.jpにもあったのだろうけれど。「暇と退屈」という現代人の悩みに刺さるコンセプトがテーマになっていたからだろうか。この手のアカデミックな単行本は、やはりオーディオブックと相性がよろしくない
・インプリケーションを求めて読むより、哲学や思想家への知識素養がある人が、著者の反駁プロセスを面白がって読む方が良さそう
【本書の構成】
序章 「好きなこととは何か」
第一章 暇と退屈の原理論ーウサギ狩りに行く人は本当は何が欲しいのか?
■物ではなく行為による気晴らしを求めている
パスカルの気晴らしの条件→熱中できること
第二章 暇と退屈の系譜学ー人間はいつから退屈しているのか
■定住生活を始め、農業を始め、資産を有するようになった。
時間が余り、退屈を感じるようになった
第三章 暇と退屈の経済紙ーなぜ”ひまじん”が尊敬されてきたのか?
■ウェブレンの引用
有閑階級の理論。必要ないコトまでできてることを顕示できていることこそ、豊かさの証であった。
→現代人には、暇があっても、それを楽しむ素養が無い
第四章 暇と退屈の疎外論ー贅沢とは何か?
■ボードリヤールの引用
広告によって、永遠と消費喚起される時代。飽くことを知らず、新製品、新商品を求めさせられ続ける。常に、今に退屈し、新しいものへの欲望を喚起させられる消費社会の到来
・消費は、無限であり、終わりがなく、満足しない
・浪費は、有限であり、終わりがあり、満足する
第五章 暇と退屈の哲学ーそもそも退屈とは何か?
■ハイデッガーの暇の第三形式
第一 何かによって退屈させられる
→校長のつまらない話を聞かされる。思わぬ待ち時間が発生する
第二 何かに際して退屈する
→気晴らしをしようと誰かに会ったり、パーティに行っても、退屈する
第三 何となく退屈だ
→いつ何時でも、人は退屈を感じ得る
第六章 暇と退屈の人間学ートカゲの世界を覗くことは可能か?
■ユクスキュルの引用ー環世界の議論
トカゲにはトカゲの、ダニにはダニの見えている、感じている世界があり、それは人間と異なる世界である。それぞれの動物が固有に感じ、認識している世界のことを環世界と呼ぶ
人は、高度な環世界移動能力を有する。
Q.何故、高度な環世界移動能力を有していると、退屈を感じやすいのか?
→より良いこと、より面白いことを想像し、認知し、今の現状に失望、退屈してしまう。今の世界に、没頭しきれない。今の世界を、面白がりきれない
第七章 暇と退屈の倫理学ー決断することは人間の証か?
■ハイデッガーの引用を批判
退屈から逃れるために、決断をするのでは、人が決断の奴隷になるだけだ。それでは、労働上の奴隷になるのと変わらない。
そうではなく、退屈の第二形式「何かに際して退屈する」ことを面白がっていくようにしよう
結論
1.「暇と退屈」に関して自分なりの受け取り方、テーマを磨け
2.消費をやめて、浪費せよ。自分のアタマを使って考え、面白がれ
3.何かの世界の動物になれ。一つの世界に没頭せよ
→大前研一の「知の衰退からいかに脱するか」カラオケ資本主義批判を思い出すな。誰かが作ったパッケージの上で一喜一憂するのではなく、自分の手と思考によって、面白さを創り出せ、という。
付録 傷と運命
???
哲学、思想家への理解が深い人が、読むと、以下のような感想を抱けるのだな。
■ハイデガーと決断――『暇と退屈の倫理学』をめぐる國分功一郎さんとの質疑応答1(平岡公彦氏)
https://kimihikohiraoka.hatenablog.com/entry/20120224/p1
- 感想投稿日 : 2022年4月17日
- 読了日 : 2022年4月17日
- 本棚登録日 : 2022年2月23日
みんなの感想をみる