ノーベル賞を受賞した物理学者のエッセイ。
砕けた文章で、日々の生活や、物理学を学ぶ上での悩みが語られていて、天才物理学者のイメージとは異なる普通の人としての朝永さんを知ることができる。
学問に取り組むときも、世間の役に立たないものに打ち込んでも…と悩んだり、憧れの先生に理研に誘われても、自信がなくて遠慮したりする様子からは、世間がぼんやりと想像する、研究に没頭して、俗世から離れた仙人のような物理学者とは異なる、世の人と変わらない親しみやすさがある。
朝永さん自身も、海外で没頭タイプの物理学者の人と実際に出会って驚いたり、大学の寮で同室の湯川さんが部屋で歩き回って思考するのに引け目を感じて図書館に逃げたり、自分がそうしたタイプの研究者でないことにまた悩んだりしているのを見ると、学者と一口に言っても、色々な人がいるんだなあ、と当たり前のことを思ってしまう。
物理学を純粋に究めたい、という気持ちの一方、戦時を経験し、オッペンハイマーや、アインシュタインと同時代に、すぐ近くで研究をしていた経験もある朝永さんが、人間が扱いきれない力を作り出す科学の危険性にも向き合わざるを得なかったことも、伺える。
マンモスが牙を大きくしすぎたために自身の生存を脅かしたように、人間もまた、進化の過程で、自らの脅威となる力を手にしてしまう/しまったことについて、諦観しつつも、それでもなお、新たな発見を追い求めることをやめてはいけない、と考え、原子力研究所建設に反対する市民との対話を経て、市民たちの肉体的な原子力への恐れを尊重し、彼らに顔向けできなくなるようなことがないような運営を目指すべきだ、と力強く語る朝永さんの言葉は、3.11を経験した私たちには複雑な思いと共に響いてくる。
- 感想投稿日 : 2023年11月26日
- 読了日 : 2023年11月26日
- 本棚登録日 : 2022年11月4日
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