うーむアンナ・ブルームよ生きていてくれい。
消息を絶った兄を求めて、すでにまともに機能していない国に渡ってしまった若い女性アンナのサバイバル物語。青いノートにつづられた手紙という形で語られている。『ガラスの街』では赤いノートだった。ノートにぎっしり書き込む登場人物がP.オースター氏は好きなのだろうか。
苦労話の連続ではあるのに、相変わらず語り口が天才的に面白くて、内容ほどには重苦しく感じずに読めた。不思議な本だ。
サバイバルのハウツー描写が地味に沁みた。ショッピングカートを体にくくりつけて狩猟民族のようにアクティブに街をうろついて物拾いをする人たち。原語はスカベンジャーだろうか。くくりつける紐を臍の緒と呼ぶのが洒落てる。もしかしたらアメリカのホームレスからイメージしてるのかもしれない。
目的は分解し、夢は燃え尽き、愛する人々は死んでゆき、刹那的な希望だけがかろうじて残る。生まれたら死ぬのが当たり前の成り行きだけれども、誰も自分が死に向かって生きているとは思っていない。ただ日々をどうにか生き続けるだけだ。その過程で出会って別れる風景や人物は、どんなに素晴らしくても永遠に残してはおけない。風景は記憶から消えてゆき、人との関係も変わってゆく。それでも瞬間瞬間鮮やかに花開き、奇妙に愛しく人生を彩ってくれる。
アンナが歩いた道程はひどく過酷で、奇妙で、とんでもなくファンタジーなのだが、同時にとても馴染みのあるものだった。
青いノートがちゃんと誰かに読まれているのがいい。読んでいるのは元恋人なのだろうか。それとも何の関係もない赤の他人だろうか。どっちでもいいのかもしれない。発した言葉が、別の誰かに届くこと、そこには救いがある。
- 感想投稿日 : 2023年2月20日
- 読了日 : 2023年2月20日
- 本棚登録日 : 2023年2月17日
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