大学受験のための小説講義 (ちくま新書 371)

著者 :
  • 筑摩書房 (2002年10月1日発売)
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感想 : 24
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 石原千秋先生による「受験小説」論。「大学受験国語」というと、どうしても「評論」の読解に重きが置かれがちだ。だから、ふと「小説」の読み方を問われると答えに窮する。そんな状況にあって、ヒントを得たいと本書を手にしてみた。
 受験生に向けた「解説」の側面もあるし、本書を読んで「なるほど」と思った部分は数知れず。その意味で大変「タメ」にはなるのだが、求めていたものと若干のズレは感じてしまった。

 僕は「受験」というものを無駄なものとは思いたくない。だから、僕の理想としては「英語で活躍をする」という人生の目的を叶えるための延長線上に「英語」の試験はあってほしい。「理系分野で大活躍」するために「受験数学」を通る道があってほしい。そして、たとえば「文学研究」などの視点を養うために「受験国語」はあるのだと思いたい。
 ところが、本書は少し「ぶっちゃけ」すぎている。「所詮、『受験国語』などこの程度」という考えが透けて見える。だから、本書からわかるのは「受験国語」には「受験国語」のルールがあって、そしてそれだけだということだ。
 もちろん、それはつまり、僕の見方が甘かったというだけの話だ。けれど「それはそれ、これはこれ」とする物の見方は「結局、受験勉強って何のためにあるのさ?」というアリガチな疑問を強化する役割しか持たない。「結局それかい」というわけだ。

 また、本書「あとがき」には「どうやらこの本は研究者としての僕の自己確認のための本にもなったようだ」と述べており、本書は一つの起点であることが示されている。本書にある記述が、その後、どう発展していっているのか。今度はそれを見なきゃいけないなあと思う。


【目次】
はじめに
序章 小説は何を読むのか、あるいは小説は読めない
第一部 小説とはどういうものか――センター試験を解く
 第一章 学校空間と小説、あるいは受験小説のルールを暴く
  過去問①学校空間の掟――山田詠美『眠れる分度器』
 第二章 崩れゆく母、あるいは記号の迷路
  過去問②メタファーを生きる子供――堀辰雄『鼠』
 第三章 物語文、あるいは消去法との闘争
  過去問③女は水のように自立する――津島佑子『水辺』
  過去問④男は涙をこらえて自立する――太宰治『故郷』
第二部 物語と小説はどう違うのか――国公立大学二次試験を解く
 第四章 物語を読むこと、あるいは先を急ぐ旅
  過去問⑤血統という喜び――津村節子『麦藁帽子』
  過去問⑥貧しさは命を奪う――吉村昭『ハタハタ』
  過去問⑦気づかない恋――志賀直哉『赤西蠣太』
 第五章 小説的物語を読むこと、あるいは恋は時間で忘れさせる
  過去問⑧ラブ・ストーリーは突然に――三島由紀夫『白鳥』
  過去問⑨恋は遠い日の花火ではない――野上弥生子『茶料理』
 第六章 物語的小説を読むこと、あるいは重なり合う時間
  過去問⑩母と同じになる「私」――梅宮創造『児戯録』
  過去問⑪父と同じになる「私」――横光利一『夜の靴』
 第七章 小説を読むこと、あるいは時間を止める病
  過去問⑫自然の中で生きる「私」――島木健作『ジガ蜂』
  過去問⑬人の心を試す病――堀辰雄『菜穂子』
  過去問⑭いっしょに死んで下さい――横光利一『春は馬車に乗って』

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 社会科学
感想投稿日 : 2014年8月20日
読了日 : 2014年8月20日
本棚登録日 : 2014年8月20日

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