「可愛い女 犬を連れた奥さん 他一編」あとがき

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  • 2012年10月4日発売
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感想 : 2
5

この物語は、主人公と犬を連れた奥さんの不倫を描いた物語である。

どう し たら 一体、 人目 を 忍ん だり、 人 に 噓 を つい たり、 別々 の 町 に 住ん だり、 久しく 会わ ず に い なけれ ば なら ない よう な 境涯 から、 抜け出す こと が できる だろ う か という こと を 語り合っ た。 どう し たら この 堪え きれ ぬ 枷 から のがれる こと が 出来る だろ う か? 「どう し たら?   どう し たら?」 と 彼 は、 頭 を かかえ て 訊く の だっ た。「 どう し たら?」   すると、 もう少し の 辛抱 で 解決 の 途 が みつかる、 そして その 時 こそ 新しい、 素晴らしい 生活 が 始まる、 と そんな 気 が する の だっ た。 そして 二人 とも、 旅 の 終り までは まだまだ はるか に 遠い こと、 いちばん 複雑 な 困難 な 途 が まだ やっと 始まっ た ばかりな こと を、
はっきり と 覚る の だっ た。

アントン チェーホフ. 犬を連れた奥さん(Kindle の位置No.453-459). 青空文庫. Kindle 版.

そしてその不倫の恋がいかに偽善に満ちたものか、世間に知られてはいけないものか、主人公は十分承知している。
だが、主人公の人生でただ一つ“欠乏”しかつ“渇望”しているものこそが心からの“恋”であると知る。

「もう少し の 辛抱 で 解決 の 途 が みつかる、 そして その 時 こそ 新しい、 素晴らしい 生活 が 始まる」

この言葉にもし「それまで生きていかなければ」と続くとすれば、あの戯曲『三人姉妹』の終幕となんと響き合うことか。
私はチェーホフの作品を、現実の人生から欠落しているが、人間が生きていくうえで最も欲しているもの(=渇望)を描いているのだと感じている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: チェーホフ 短編
感想投稿日 : 2023年1月4日
読了日 : 2023年1月4日
本棚登録日 : 2023年1月4日

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