ジャイロスコープ (新潮文庫)

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本棚登録 : 4417
レビュー : 534
著者 :
もるがなさん 現代劇   読み終わった 

今までは連作短編集の皮を被った長編小説ばかりだったが、本作はそれぞれが完全に独立した短編になっている著者初の短編集である。それぞれのストーリーはミステリであったり、SFであったり、人情モノであったりとジャンルはバラバラであるものの、趣向を凝らした仕掛けが随所に施されており、一本一本の完成度は非常に高い。特筆すべきは独特なシチュエーションによる語り口と、それと相反する小市民的な日常性の妙であり、この感覚を両立できるのが著者の類まれな才覚の一つだろう。個人的に一番面白かったのは「彗星さんたち」で、新幹線の車両が小説の構成にダイレクトに繋がっており、そこに一人の人生が連続してつめ込まれている「かもしれない」という突飛で飛躍したアイディアが非常に魅力的である。この「かもしれない」の塩梅が非常によく、「まさか」と一笑に付す可能性を残しているため、その余韻が素晴らしかった。また主人公がシングルマザーというのもよく、夫に対する緩やかな失望や人生の諦観、一人娘の成長を見守るというささやかな希望がほんの短いセンテンスの中に詰め込まれている。生活臭を出しつつも、最大公約数の幸せや苦労を描ける筆致はまさに現代のO・ヘンリーであろう。他にも軽妙洒脱なタイトルセンスとミステリ的な小話である「浜田青年ホントスカ」や、著者「らしくない」SF短編である「ギア」。文学的な趣と、著者特有の構成による時系列トリックが仕込まれた「二月下旬から三月上旬」。バスジャックというワンアイデアを即興で綴った掌編小説「if」。とある奇妙な職業の小さな奇跡「一人では無理がある」。前述の「彗星さんたち」全ての短編の受け皿となるエピローグめいた短編「後ろの声がうるさい」など、すっとぼけたタイトルがどれも魅力的な珠玉の短編集である。

レビュー投稿日
2019年5月28日
読了日
2015年7月30日
本棚登録日
2019年5月28日
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