アライバル

  • 河出書房新社 (2011年3月16日発売)
4.28
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本棚登録 : 2440
感想 : 324
5

あぁぁぁ…………本当にショーン・タンは最高だ。
本書は文字のない絵本…いやもう絵本というカテゴリで読んでいいのか…見事な芸術作品であり文学だ。
移民たちの物語、移民たちの運命と、何もわからない知りあいもいない新天地でまるで"異邦人(エイリアン)"になってしまった不安な心地と、新天地での希望と、生活を描いている。
文字がなくても見事に伝わってくる…主人公らしき男の妻子との別れから始まり、長い長い船旅を経て移民申請所で綿密な検査を受け、言葉も何も伝わない所で住処や仕事を確保し…
そんな生活だけでなく、移民となって新天地にやってくるまでに至る主人公はじめ、その新天地で主人公出会う元は彼らも移民だったのだろう回想や想いが、恐怖と不安と希望が、切実なまでに伝わってくる。

絵もかなり緻密だ。けれど、ただ単にリアリスティックなだけではなく、しっかりとショーン・タンらしい幻想的な…シュルレアリスムを彷彿とさせる様々なモチーフが登場する。
これらのバランスが見事に合わさって、見事に読者に解釈の幅を広げさせながらも、物語にドラマティックさを与え、現実とフィクションのはざまの素晴らしい感動と郷愁を感じさせる。
私は移民どころか地元から離れて住んだことすらないのに、胸が詰まる思いがしたし終盤は泣けてくるし爽やかでもあたたかでもある…
新天地で生きていくことは並大抵ではないけれど、そこで生きていこうとする人たちの命の煌めきと、したたかさを感じた。

語り始めるとキリがないんだけれど、もう人物の表情とか仕草の描写、光の描写、架空の風景や生物一枚一枚の絵のパースの正確さと表現力の素晴らしさたるや…絵を見るだけでも楽しめる…というかもう何時間でも何日でも見続けられる…
そのうえこの綿密な取材や構想の練りを感じさせるストーリー。架空の生物や国の、自由に描いているようでいて、まるで本当に存在しているかのような確かさ。
ストーリー内では移民たちの祖国と新天地共に、どこの国かは全く限定されておらず、万国共通すべての人に感動を与えるのに一役買っていると思う。
文字も明らかに架空のもので、徹底している…と感嘆した。

あとがきには制作期間四年とある。
この作品への力の入れようを感じながらも、逆にたった四年でこんな傑作を生んだのか…と完全に脱帽もの。
こんにちは。ファンの者です。他の作品も後追いになるけど追いかけていきます。
表紙にもいる架空の生き物ちゃん、とてもかわいいです。
今回図書館で借りて読みましたが、ぜひいずれ絶版になる前に買いたいいやこんな名作が絶版になるなんてそんなありえないと思いますが世の中って世知辛いものなので。
装丁の素晴らしさといい、何度でも言うけどほんと芸術作品……

ほんの数年前にショーン・タンの展覧会?がいくつかあったと今更知って泣いているところ。素晴らしさを知るのが、知るのが遅かった…!!
ま、またやってくれないかな……まず絵本買おうな……

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 児童文学/絵本
感想投稿日 : 2022年8月2日
読了日 : 2022年7月31日
本棚登録日 : 2022年7月31日

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