「それからはスープのことばかり考えて暮らした」
おもしろいタイトル、一体どんな話だろうと読む前から想像力が掻き立てられる
今回は月舟町のお隣の町桜川に住む人々の日常だった
「つむじ風食堂の夜」の姉妹作ということらしい
町中を走る二両の路面電車、アパートから見える教会の白い十字架、商店街のしっぽにあるサンドイッチ屋、隣町にある小さな映画館・・・時代から取り残されたような穏やかな町とそこに住む人々の人の良さに、どっぷりと包まれる心地よさ
サンドイッチのお店トロワの安藤さんの遠慮がちなラブコールで、オーリィ君はそこで働くことになる
憧れの遠距離恋愛の恋人あおいさん、大家さんのマダム
小生意気なリツ君、時代遅れというより昔ののんびりした時間の中に悠然と身をおいているかのような安藤さん、月舟シネマの青年・・・
そんな人たちによって紡がれる変わり映えのしない日常が愛おしくいかに尊いかが分かる
温かい湯気に包まれたいい香りがしてきそうなスープの描写も楽しくお腹が鳴りそうだった
月舟シネマの16席離れた席から漂うスープの香り
あおいさんが作ったスープを口にした時に発した野生の声
スープのことばかり考えてやっと出来上がったスープの試食の場面
そして、最終章は、『名なしのスープのつくり方』
これがまた傑作だが、読んだ人だけが分かるお楽しみということで・・・
この作品の冒頭オーリィ君が自己紹介するくだりの
「このごろは、犬もレインコートを着るくらいだから」
から、次作のタイトルはこれにしてしまおうとなったらしい
吉田篤弘さん、相当ウィットに富んだ人のようだ
『レインコートを着た犬』も楽しみだ
- 感想投稿日 : 2021年1月25日
- 読了日 : 2021年1月25日
- 本棚登録日 : 2021年1月23日
みんなの感想をみる