源平の風 (白狐魔記 1)

著者 :
  • 偕成社 (1996年2月1日発売)
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本棚登録 : 794
感想 : 96
4

母ぎつねから独り立ちしたきつねが主人公のお話。
このきつね、他のきつねと違ったのは、とても耳が良かったということ。
風の音や木々の立てる音、あらゆる音を聞き分ける優れた耳を持ったきつねは、やがて人間の言葉を聞き分けることができるようになります。
そしてこのきつねがもう一つ変わっていたのは、人のそばで暮らすと決めたこと。
人間に姿を見せないように注意しながらも、人里の近くに暮らし、人間の生活を垣間見て、人間に思いを寄せていきます。
ある時きつねは、子どもたちに話す和尚さんの話から、北の山の仙人のところで修業をすると、きつねは人間に化けることが出来るようになるという話を聞きますが…。


とても面白かったです。
歴史が絡むお話は切なくなってしまうことが多いような気がして少し身構えてしまいますが、このお話は、切ないながらも、人間を見つめるきつねの目線がフラットで、それでいてどこか温かで、読み手も感情的になりすぎず、俯瞰した視点から、歴史のうねりや人間の生死を見つめることができました。
1巻のタイトルが『源平の風』ということで、源平合戦の頃の史実に基づき(多分)話が進んでゆき、途中で源義経一行ときつねの時間軸が重なります。タイトルからして、もっとがっつりと義経と絡んでゆくのかなぁと想像していたのですが、きつねと義経との冒険譚!という訳ではなく、きつねの生きている線上に、一時、義経たちの生が重なるというイメージで、その描かれ方がまたとてもよいと思いました。
そして、このきつねの性格というか、語り口が、淡々としているのだけれど、肝は押さえているといった感じで、きつねと一緒になって人間について、生について考えさせられ、ハッとさせらる場面が多々ありました。
どうして人間は、自分が生きるためでなく、他の人間の命を奪うのか。
合戦を見てきつねが思ったことは、現在の私たちにも等しく突き刺さります。
けれど、ただ、生きるために、食べるためだけに殺すだけではいられないことを、きつね自身が身を以て経験していく様は、きれいごとではいられない生というものの罪深さを思い出させます。
猟師との場面では、宮沢賢治の作品を想起しました。
場面場面が明確に頭に思い描かれる描写は、分かりやすく読みやすいです。
淡々とした文章であるのに、きつねの言葉がいくつも心に留まりました。
大人の人におすすめかもしれないです。

白駒山の仙人の存在はとても不思議。既存の仙人像とは一味違い、漫画にでも出てきそうなキャラクターです。仙人とのやりとりでは、きつねの性格も浮き彫りになり、ちょっと楽しいです。

次巻以降も楽しみです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小学校高学年
感想投稿日 : 2020年1月28日
読了日 : 2020年1月14日
本棚登録日 : 2020年1月14日

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