くまちゃん (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2011年10月28日発売)
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本棚登録 : 2722
感想 : 247
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「希麻子のいう成功がどんなものかはよくわからないが,しかし,何かをやりたいと願い,それが実現するときというのは,不思議なくらい他人が気にならない。意識の中から他人という概念がそっくりそのまま抜け落ちて,あとはもう,自分しかいない。自分が何をやりたいかしかない,…それは何だか,隅々まで陽にさらされた広大な野っぱらにいるような,すがすがしくも心細い,小便を漏らしてしまいそうな心持ちなのだ。自分を認めないだれかをこき下ろしている間はその野っぱらに決していくことはできないし,野っぱらを見ることがなければほしいものはいつまでたっても手に入らない」
「馬鹿だなあ,きみはなんか見て感動したんだろ,すげえって思ったんだろ,それだけでいいんだって,履歴とかキャリアとかじゃなくて,すげえって思うその気持ちの強さだけがこれからのきみを引っ張ってく力なんだぞってそう言うんだよ」
「おれが成功していて,文太は失敗しているんだろうか。マスコミに取り上げられれば成功で,取りざたされなくなれば失敗なのか。…俺の感じた「すげえ」はそんなのとはちっとも関係ないような気がする。けど,何人もが「すげえ」と思ったからあの画家は美術館を作ることができたわけで,もしあのすげえ絵が自宅にひっそりと放置されていたら,すげえってことすら,だれにもわからないことになる」
「才能だとなんだのが有効なのはいつも今しかないじゃないの。過去に何やったかなんて関係ないし,未来に何をしようが関係ない。今何者でもなきゃ,何者でもないってことよ。今何かしなきゃ,未来につながるものだってなんにもないってことよ」

面白かった。短編がつながっていく感じとか。
あんまり読んだことないけど,この人の文章は好きかも。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2011年11月30日
読了日 : 2011年11月30日
本棚登録日 : 2011年11月6日

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