プールサイド小景・静物 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1965年3月1日発売)
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本棚登録 : 692
感想 : 70
5

一年後、どんな内容の本だったか思い出せるか。もしかすると、すっかり忘れてしまっているかもしれない。
それはそうで、これはあまりにも“日常”である。三日前の晩ご飯を思い出せないように、“日常”とは過ぎ去っていくもの、忘れ去られていくものである。そのような“日常”を克明に描写している。
一つ一つの出来事を丁寧に、ありのまま描くことで、些細な“日常”の裏に深刻な何かが見え隠れする。急に、“日常”が重大に思われてくる。
その深刻な何か、日常の裏にある“危うさ”みたいなもの、それは一体何なのか、どういうことなのか、はっきりと書かれてはいない。結果、それが読後の絶妙な余韻へと繋がっている。

初めて志賀直哉を読んだときの衝撃と似ている。☆5つでも足りないくらい。今年読んだ本の中で最も衝撃的だった。

本書収録の中では、『舞踏』が最も私の好みで、冒頭からやられてしまった。
“家庭の危機というものは、台所の天窓にへばりついている守宮(やもり)のようなものだ”

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2023年11月10日
読了日 : 2023年11月10日
本棚登録日 : 2023年11月10日

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