くまちゃん (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2011年10月28日発売)
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『二十人いれば二十通りの恋があり、二十通りの失恋がある。みなそれぞれ、そのときの自分に必要な恋をしたのだ

その人のようになりたいと思ってはじまる恋がある。似ているから好きになる恋もあり、あまりに違うから好きになる恋もある。好きだと言われてはじまる恋も、同情を勘違いしてはじまる恋もある。だれしもそのとき自分に必要な相手と必要な恋をし、手に入れたり手に入れなかったり、守ろうと足掻いたり守れなかったりする。そしてあるとき、関係は終わる。それは必要であったものが、必要でなくなったからなのだろう。たぶん、双方にとって。

でも、そのことには気づかない。自分にもうその関係は必要ないのだとわからない。関係を終えることはあまりにも馬鹿でかいからだ。

目の前が真っ暗になる。世界が終わるんじゃないかと思う。終わっちまえばいいと思う。胃が痛み、何を食べてもおいしいと思えない。じぶんがなんの取り柄も魅力もない石ころに思える。思いきり存在を否定されたように感じる。頭がおかしくなるのではないかと思う。いっそおかしくなってくれればいいとすら思う。ふつうに道を歩いていたら、なんの前触れもなくその先が分断されている。戻る道も残されていないと思う。未来が勝手に切り崩される。町の至るところに元恋人との思い出がこびりついていて、出歩くとめまいがする。勝手に涙が流れてくる。人と関わるのが、こわくなる。

いっときでも関わった人と別れるのは、そのくらいたいへんなことなのだ。四年も五年も引きずる場合だってある。ミナはまだ、乙女相談室の飲み会に参加し続けている。

自分には必要でないということがわからないまま、過去にじっとうずくまる。記憶にしがみつく。なぜなら次に何が必要か、自分にはわからないから。あるいはまだ、誰も必要としていないから。けれど、だけど、不思議なことに、私たちは立ち直るのだ、とこずえは思う。』

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2016年2月17日
読了日 : 2016年2月17日
本棚登録日 : 2016年2月15日

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