双子の母親を持ちいとこ同士の昇一と由美子が、昇一の母の遺言をもとに双子である母たちにまつわる過去の悲惨な思い出をひとつずつ紐解いてまわる物語(夢の中の話で、由美子はその事件の時にすでに死んでいた)
はじめてよしもとばななの小説を読んだ。ここの登場人物の感性がよしもとさんの内側から生まれ出てきたものならば、少年少女時代の感性をここまで緻密に言葉で表現できるものだろうかと驚嘆した。自分自身の原体験を再現するには、記憶の鮮明さだけではなく、子供時代の少ない語彙では言葉にできなかった感情を、あらためて言語化して、可能な限り自然に適合する言葉を選ばなければならない。その際にかかるフィルターはきっと、年を重ねれば重ねるほど分厚いものになっていくが、いかにそれを取り除いてありのままの記憶を言語化できるかが重要になることは想像に難くない。それを、すっと理解できる言葉で表現されているこの小説は、ふと少年時代を思い出したくなった時にはうってつけだと思った。
また、この小説に出てくる死生観は、今の自分にとって共感できる部分が大きかった。
「子供を持つって、自分は素直にもう席を譲っていいな、というこんな気持ちなのかもしれないな」って、感じた由美子にめちゃくちゃ同意。自分の席を譲るって表現が割としっくりきて、まさに子供はその席に座ってくれると信じることのできる存在になるのだと思う。別に子供がいなかったとしても、その席に座ってくれる誰かが見つかった時点で、(託せそうな人はすでにいるが)自分の生を捨てる覚悟も然り、その生を楽しむ喜びを素直に掴みにいくこともできるようになると個人的には思われる。
その生の楽しみ方の一つが、自分の身の回りを大切にし、その小さな世界を観察したり触れ合ったりすることなのだとこの小説を読んで感じた。
- 感想投稿日 : 2019年4月18日
- 読了日 : 2019年4月18日
- 本棚登録日 : 2019年4月18日
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