移行化石の発見 (文春文庫 S 16-1)

  • 文藝春秋 (2014年11月7日発売)
4.37
  • (9)
  • (8)
  • (2)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 85
感想 : 9
4

人は見たいものだけを見ようとし、見たくないものは見ようとしない。理解が簡単なものと難しいものがあれば、必ず簡単な方を選ぶ。

ではなぜ、人間社会はかくも繁栄してこれたのか?この世は簡単なものが積み上がっただけの世界なのか?それとも一部の天才と変人のおかげで変革に至ったのか?
どちらも間違いではない。つまるところ時代が進み、材料がそろい、革新的な『難しい真実』を理解するコストよりも、手垢まみれの『簡単な嘘』を信じ続けるコストの方が高くつくようになったからだ。
地動説も。大陸移動説も。そしてもちろん、進化論も。

今なお創世記をかたくなに信じる人達を周回遅れにするかのごとく、2000年代以降にも移行化石は次々と発見され、その重要さは分子解析に遅れをとることなく、新たな知見を提供し続けている。

2006年に発表された、腕があるヒレを持つ魚ティクターリク。2008年に発表された、全身が羽毛に包まれ、歯があるクチバシを持つ恐竜エピデシプテリクス。2007年に発表された、クジラと同様に水中で長時間過ごすための耳骨を持つ、海に適応し始めた哺乳類インドヒウス。そして2010年に発表された、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の交雑の可能性。

だがしかし、時代と発見が全てを解決してくれるわけではない。
2009年においてさえ、遠い系統の猿の化石が、人類への進化の最初の一歩だと誤ってもてはやされ、ダーウィニウスとまで名付けられ、グーグルのホームページのロゴに採用されるという事態が生じた。

人は見たいものだけを見ようとし、見たくないものは見ようとしない。その生態は、当分の間変わることはないだろう。
だが、それでも人類はここまで来ることは出来た。
であるならば、調査を分担し、事実を積み上げ、新たな発見を繰り返すことで、少しずつでも、見たくないものを見えるようにしていくことは出来るだろう。
新しい化石は、今日もまた、見つかっている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2016年11月23日
読了日 : 2016年11月23日
本棚登録日 : 2016年11月23日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする