かなり以前、中田永一さんの『くちびるに歌を』を読み、後になって乙一さんの別名義だと知りました。作風による使い分け? と思いながら、これまで乙一さん作品は未読でした。
本書が、乙一さんが1996年に16歳で執筆したデビュー作品という事実に驚き、空恐ろしさを覚えました。
表題作「夏と花火と私の死体」は、語り手が〝死体(わたし)〟! この設定と物語の完成度の高さに、思わず唸ってしまいました。まさしく、16歳が世間に知らしめた衝撃的作品でした。
善悪の判断もままならない小さな子どもの無邪気さと残虐性、死んだわたしの淡々とした語り口、予想外の驚愕の結末など、構成や情景描写の秀逸さも含めて感心するばかりです。
もう一編「優子」は、少し雰囲気が違います。情感あふれ、質素ながら趣のある筆致で、ノスタルジックな時代と情景が心に染みてくるようです。
亡き妻の幻影を人形の中に見ている男と使用人の娘。狂気に終止符を打とうと娘が行動し、またしても予想外の結末がやってきます。誰が狂っているのか? どこまでが幻覚? 真実? いろんな解釈が可能な設定こそが、筆者のねらいとするところだったのでしょうか‥。
2編ともに、若き非凡さに驚嘆させられる作品でした。乙一さん、まだ40代半ばなのですね。推理、ホラー、恋愛やライトノベルまで作風が広いということなので、もう少し他作品を読んでみたいと思いました。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2023年3月16日
- 読了日 : 2023年3月16日
- 本棚登録日 : 2023年3月16日
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コメント 2件
チーニャ、ピーナッツが好きさんのコメント
2023/05/02
NO Book & Coffee NO LIFEさんのコメント
2023/05/02