本書は、手に負えない困難な問題に直面した人物の、苦悩や決断を濃密に描いた物語です。
全編を通じて要所に挟み込まれる手紙。これは、資産家老女の強盗殺人で服役中の兄から、孤独に一人で生きる弟への月一回の律儀な手紙でした。
父母を亡くした後、弟の大学進学実現のため奮闘する兄が凶悪犯罪を犯し、その犯罪行為の直接原因が自分であるが故に悩む弟‥。
弟は兄の愛情を理解し感謝するものの、〝凶悪犯の弟〟という事実が、何をするにも壁となり立ちはだかります。バイト先、音楽活動、恋人‥と、偏見と差別が付き纏い、全てやむ無く諦め希望の光が見えてこない描写は切ない限りです。
自分が加害者家族だったらどうするのか? 隠し通すのは、保身か信頼への裏切りか? 身近にそんな当事者がいたらどう関わるのか? 読み手も難しい問題を投げかけられているかのようです。
犯罪行為があれば、加害者本人が罰せられるのは当然ですが、加害者家族も長い間社会的に罰せられるのですね。このどうしようもない事実を突きつけられ、考えさせられました。
加害者家族のその後の生活・その先を、真正面から描き切り、テンポよく読め、淡々とした描写にも関わらず、人間の内面に深く切り込んだ「読者自身に判断・選択を問う物語」だと感じました。一読、熟考の価値がありますね。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2023年10月30日
- 読了日 : 2023年10月30日
- 本棚登録日 : 2023年10月30日
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コメント 1件
Manideさんのコメント
2023/11/08