アメリカで1965年に刊行され、その後2006年に復刊、海外翻訳から徐々に評価が高まったという本書です。
裏表紙短評の「美しい」の言葉、日本翻訳大賞「読者賞」受賞! の見出しにも惹かれるものがありました。
確かに読み進めて感じるのは、時代背景もありますが、主人公の貧しい生育歴とどこか寂しさを感じさせる風景描写、受け身の性格からか地味な雰囲気が漂い、孤独と忍耐が似つかわしく、物語の展開への期待感は余りもてませんでした。
しかしながら、静かなモノクロ映画を観ているような錯覚を覚えます。主人公である大学助教授・ストーナーの一生が、静謐な日々の連続として淡々と描かれ、詩情がにじむ雰囲気があるのです。東江一紀さんの和訳も素晴らしいと感じました。
人生の中にある些細な喜びと哀しみ、平穏と苦悩、後悔と諦念‥、これらの対比は、誰の日常の中にもあるものでしょう。身近に感じるが故、知らぬうちにストーナーの人生と自分を重ねて読んでいました。自分の人生、ドラマチックなことが起こらなくとも、この程度でいいのかな‥と。
多分に、年齢を重ね、より多くの経験を積んだ方ほど、本書のよさが響くのではないでしょうか? ストーナーの一生は、平凡や憐れではなく、幸せだったと言えるのではないか、と思わせてくれる著者の温かな眼差しを感じさせる秀作だと思いました。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2023年2月4日
- 読了日 : 2023年2月4日
- 本棚登録日 : 2023年2月4日
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