生麦事件(下) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2002年5月29日発売)
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感想 : 24
3

上巻に続いて読了。
歴史の教科書では一瞬で通り過ぎてしまう「生麦事件」というひとつのできごとが、幕末動乱の(明治維新という革命的な体制変更の)きっかけである、という立場から、精緻な取材に裏付けられた作品だと感じました。
特に、p.94にある「(薩英戦争の際に英国艦隊が鹿児島の街を焼いたことについて)イギリスの新聞は、大英帝国の名誉を傷つけるものだという記事をのせ、遂には国会でも取り上げられることになった。下院議員のバクストンは、市街を焼いた行為は戦争の慣行にそむくもので、甚だ遺憾である、という動議を議会に提出した」というイギリス側の反応については今まで知りませんでしたし、p.130から描かれている薩摩とイギリスの和平交渉の場での薩摩藩士の外交姿勢は理路整然と自らの主張を明示しており、とても魅力的に感じました。

特定の個人にフォーカスした作品ではなく、薩摩・長州・英国(+幕府・朝廷)といったそれぞれの立場から、何を目指して行動したのか、という点も含めて描かれており、読みごたえがあります。

一方で、特定の人物を中心的に取り上げていないからこそ、感情移入して作品世界に入り込む、という形の読書体験にはなりませんでした。

「ストーリー」のある大河ドラマとして歴史小説を読みたい人には少し物足りないかもしれませんが、単純に「歴史(日本史/幕末)」が好きな人にとっては、興味深く読める作品だと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 仕事
感想投稿日 : 2019年10月24日
読了日 : 2019年10月24日
本棚登録日 : 2019年10月21日

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